ピアノとダンスしているみたいだったアレクセイ・リュビモフ ピアノリサイタル

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

来年2020年に引退を表明しているアレクセイ・リュビモフですが、実はライブを聴くのは初めてです。

プログラムはオール・モーツァルト。

・・・モーツァルトには、昔々、散々怒られまくり、手を叩かれることも日常だったレッスンの悪夢が私の中に根深くあり、少々微妙だったんですけれど、Youtubeの音源聴いたら「これは絶対にライブで聴くべし!!」という天の声が聴こえ、行って参りました。。

果たして、リュビモフは、私のほとんどPTSDレベルのトラウマをやさしく一掃してくれました。

 

~♪~

この記事を書いた人
伊奈葉子 / Yoko Ina Piano Teacher

音楽と自然と読書とお茶時間をこよなく愛しています。ピアノで故障する人、無駄に苦しむ人をなくし、もっと豊かな音楽を!
詳しいプロフィールはこちら

~♪~

ゆりかごから墓場まで?!~人生そのものなプログラム

オール・モーツアルトのプログラムは以下の通り。

《オール・モーツァルト・プログラム》
モーツァルト: 幻想曲 ニ短調 K.397
モーツァルト: ピアノ・ソナタ ニ長調 K.311
モーツァルト: ピアノ・ソナタ イ短調 K.310
<休憩>
モーツァルト: ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545
モーツァルト: 幻想曲 ハ短調 K.396 (シュタードラー補筆)
モーツァルト: ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457

私としては2つのことをこの演奏会の記憶としてとどめておきたいと思います。

ゆりかごから墓場までなプログラム

まずは興味深いプログラム構成。

ご覧の通り、幻想曲とソナタが関係調できれいに並べられ、構成に興味をそそられますが、実際プログラム全体がドラマとなっていました。

最初の幻想曲ニ短調。
悪魔的とか悲劇的というよりも、まるで“禅”の世界のような無や静寂から生命が生まれるような神秘、神聖を感じました。

その生命は力強く躍動し、無邪気な子供の笑顔や飛んだり跳ねたりする様子が浮かぶようなニ長調ソナタ。

その生命は、やがて自我に目覚め、苦悩します。それはまさしく思春期の疾風怒濤かというようなイ短調ソナタ。

休憩後はハ長調ソナタは真っ直ぐに想いを貫く若い魂。

幻想曲ハ短調は自由と理想を追い求める人間の姿そのもの。

最後はハ短調ソナタ。
人間の悲劇性や人生そのものを描きつつ、とそれでもなお慰めがある、何とも深い聖書を読んでいるような演奏。三楽章は神に愛された天才モーツァルトが、借金取りに追い立てられ楽譜を書きまくる様子が目に浮かぶよう。

アダムとイブがりんごを食べて以来宿命づけられた人間の悲しい性をユーモアを持って語られるような演奏でした。

ゆりかごから墓場までを聴いた気分です。

そして、幻想曲の幻想曲たる真の姿を聴かせてもらいました。

幻想曲って「自由な形式」、「自由な表現」って言われるけれど、その“自由”ってこいういうことなのね‼︎と腑に落ちる幻想曲バンザイな演奏!!

モーツァルトのデモーニッシュって何だろう?

モーツァルトというと、二言目には語れる”デモーニッシュ”・・・

しかし、この日のリュビモフの演奏には“悪魔”はいませんでした。

隅から隅まで一面の“ミューズ”の躍動。頭の中はいつも音楽でいっぱい、書くのが追いつかないほど湧き出る彼の音楽が、ほとばしるような活き活きとインスピレーションあふれる演奏でした。

 

モーツァルトってこういう曲を描いていたのね⁉︎

と、初めて正体を見せてもらった気分。

 

モーツァルトをデモーニッシュと形容するのはひょっとして歪曲された演奏のせいじゃないかとさえ思いました。

夢の中に融けるようなシューベルト|アンコール
アンコール

アンコールがなんとシューベルト。

1曲目はシューベルト 即興曲Op.90-2
さわやかな風が頬を撫でるような冒頭の三連符、その風に乗って夢の中へ連れていかれるようでした。

2曲目は同じく即興曲Op.90-3、続いて4へ。。。

実はシューベルトがあまり好きではなくて、それは死の淵に立っているような不気味さを感じるからなのですが、リュビモフのモーツァルトがデモーニッシュでないように、リュビモフのシューベルトは天使たちに守られて安らかな天国にいるようでした。

ピアノとダンスしているようなリュビモフ

さて、モーツァルトとシューベルトを堪能しながら、もうひとつ釘づけになって見入り、聴き入り、魅了されたのがリュビモフのまるでピアノとダンスをしているような美しい演奏スタイルでした。

リュビモフの中にあふれる音楽は、身体からバレエダンサーのようにしなやかな腕を通って指先に伝わり、無限のグラデーションとバリエーションのタッチによって鍵盤と伝えられ、鍵盤の深さ約1cmの動きはダンパーとハンマーへと伝わり弦を揺らしピアノを振動させ、ホールへと放たれました。

その演奏は、ピアノを聴きているというより、音楽を体感しているという感じ。

ピアノの音ってこんなに美しく多彩なのね、というレベルを超えて響いていました。

その音楽は心の奥底に染み渡り、細胞レベルに働きかけて何とも言えない悦びに満たされるのです。

かれこれ17年くらい前に白井光子さんとヘルムート・ヘルのマスタークラスを聴講した時に白井光子さんが

“歌う”基本は“嬉しい”

とおっしゃっていましたが、”歌う”は声楽だけの話ではありません。

リュビモフの演奏はまさに“嬉しい”、喜びに満ちていました。

 

ライブで聴くことができて本当によかったです。。。

 

データ|アレクセイ・リュビモフ ピアノリサイタル2019

アレクセイ・リュビモフ ピアノリサイタル

《オール・モーツァルト・プログラム》
モーツァルト: 幻想曲 ニ短調 K.397
モーツァルト: ピアノ・ソナタ ニ長調 K.311
モーツァルト: ピアノ・ソナタ イ短調 K.310
—–
モーツァルト: ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545
モーツァルト: 幻想曲 ハ短調 K.396 (シュタードラー補筆)
モーツァルト: ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457

《アンコール》
シューベルト:即興曲 Op.90-2, 3, 4

2019年9月29日(日)15開演
すみだトリフォニー小ホール