ショパンの演奏ってこんな感じだったのかも|ババヤン ピアノリサイタル

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
素晴らしい演奏を聴かせてくれるのに、なぜか日本では知られていない人、かなりいます。
そのひとりセルゲイ・ババヤンを武蔵野市民文化会館で聴きました。
プログラムはオール・ショパン。
ショパン自身が弾いているような錯覚に陥るミラクルな一夜でした。

~♪~

この記事を書いた人
伊奈葉子 / Yoko Ina

音楽と自然と読書とお茶時間をこよなく愛するピアノ弾き。
詳しいプロフィールはこちら

~♪~

セルゲイ・ババヤンを知らないなんて・・・

セルゲイ・ババヤンを知らない人でも、ダニール・トリフォノフの先生と言ったら「あ~、そうなのね~」とイメージが湧く方は少なくないでしょう。
最近ではアルゲリッチとのデュオでグラモフォンからCDを出していて、実は第1回浜コン(浜松国際ピアノコンクール)優勝者です。
名前からわかるようにアルメニア生まれ、音楽家一家だったそうです。
モスクワ音楽院ではミハイル・プレトニョフ、ヴェラ・ゴルノスタエヴァ、レフ・ナウモフに師事、現在はクリーブランド音楽院、ジュリアード音楽院で教えています。
ゲルギエフとの共演も多く、欧米ではその実力が広く認められているのに、日本で知られていないのはとても残念です。。。
とは言え、この日の武蔵野市民文化会館は完売の満席でした。

”リストは何千人もの人に聴かせる様に弾くが、 私はただ一人の人に聴かせるために弾く”

ババヤンのショパンは、まずプログラムが不思議でした。
前半は
ポロネーズ 嬰ハ短調 Op.26-1
ワルツ嬰ハ短調Op.64-2
舟歌 嬰へ長調 Op.60
ワルツ ロ短調 Op.69-2
ノクターン ロ長調 Op.9-3
幻想ポロネーズ 変イ長調
即興曲 第1番 変イ長調 Op.29
前奏曲 変イ長調 B.86
ワルツ変イ長調Op.34-1
休憩をはさみ後半はマズルカ18曲と最後はワルツへ長調Op.34-3。
・・・私にとってこの選曲と曲順はとても謎で、一体どういう演奏会になるのだろう?と興味津々でしたが、果たして全く想像出来ない素晴らしいものでした。
事前に”休憩以外の途中入場不可”とアナウンスされましたが、それはすべてがアタッカで連続して演奏されるためでした。
まるで、前半と後半でショパン第1組曲と第2組曲を聴いた雰囲気、不思議な曲順も全くの必然として自然な流れでした。
さらに照明にもこだわりが見られ、客席は通常よりも明るめ、ステージは暗め、すなわち、ステージと客席が同じくらいの明るさ(暗さ)で、電気のなかったショパンの時代のろうそくの灯だとこんな雰囲気かな?という中で、一切の虚飾や過剰な演出も感情移入もなく、淡々と誠実な音楽が流れました。
ショパンの言葉として
リストは何千人もの人に聴かせる様に弾くが、 私はただ一人の人に聴かせるために弾く。
というのが伝わっていますが、ショパンがサロンで親しい人のために弾いたのはこんな感じだったのかもしれないと感じました。
聴く前には、
あの曲はどう弾くのだろう?
あそこのペダルはどうするのだろう?
などと色々想像し、しっかり確認するぞ!と意気込んでいたのですが、演奏が始まったら、そんなことはどうでもよくなって、ただただ音楽に浸りました。
肩の力が抜け、身体が軽くなり、何とも言えない喜悦感が沸き起こってきて、音楽の素晴らしさを改めて知り、そして、ショパンの作品の真髄を聴かせてもらったようです。

個人的に印象が強かった幻想ポロネーズ

全体がひとつの流れとなっていたので、1曲ずつについてコメントする気になれない演奏会でしたが、私にとってとても印象的だったのは幻想ポロネーズでした。

この曲がショパンコンクールの課題曲になっていた2010年の審査員のひとりが(ポーランド人だけどヤシンスキではなかった、パレチニのような記憶がある)

幻想ポロネーズはポーランドの歴史そのものです。

と語っていたのですが、その意味が腑に落ちるような演奏でした。

それを言葉で説明するのは難しく、心象として歴史絵巻が繰り広げられるようでした。

想いを込めた演奏ってどうなんだろう?

この日のババヤンの演奏について、あの曲がどうのこうのと言うのは野暮でしかなく、その時間を文字通り”至福の時”として過ごしたのですが、備忘録としてテクニックについてメモしておこうと思います。

とにかく、響きが美しい。ピアノはファツィオリでしたが、一般的に言われる明るい響きという以上に、透明でクリアでそれでいて優しいのが印象的でした。

過剰なffもなければ、か弱いppもなく、感情を爆発させることもなく、眉間に皺を寄せて陶酔するでもなく、極めて冷静かつ上品で、だからこそ人の心に真っ直ぐに届き、染み渡っていく・・・という感じでした。

上半身はほとんど動かず、前腕も左右にスライドするだけ、指の動きも必要最小限。

こういう演奏に接すると、感動的な演奏というのは想いを込めることではないということを改めて考えさせられます。。。

セルゲイ・ババヤン ピアノリサイタル

セルゲイ・ババヤン ピアノリサイタル

【プログラム】

ポロネーズ 嬰ハ短調 Op.26-1
ワルツ嬰ハ短調Op.64-2
舟歌 嬰へ長調 Op.60
ワルツ ロ短調 Op.69-2
ノクターン ロ長調 Op.9-3
幻想ポロネーズ 変イ長調
即興曲 第1番 変イ長調 Op.29
前奏曲 変イ長調 B.86
ワルツ変イ長調Op.34-1

<休憩>

マズルカ
嬰ハ短調Op.6-2
嬰ハ短調Op.63-3
ヘ短調Op.63-2
へ短調Op.7-3
変ロ短調Op.24-4
変ロ長調Op.7-1
ト短調Op.67-2
ハ長調Op.67-3
イ短調Op.67-4
イ短調Op.68-2
ヘ長調Op.68-3
変ロ長調(遺作)
変ホ短調Op.6-4
変イ短調Op.41-4
ハ短調Op.30-1
ロ短調Op.30-2
ロ短調Op.33-4
ハ長調Op.56-2
ワルツヘ長調Op.34-3

アンコール:ラモー 鳥のさえずり

2019年12月10日(火)19:00開演
武蔵野市民文化会館 小ホール

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事を書いた人

~♪~

この記事を書いた人
伊奈葉子 / Yoko Ina

音楽と自然と読書とお茶時間をこよなく愛するピアノ弾き。
詳しいプロフィールはこちら

~♪~