上野の東京都美術館で開催中の『ブリューゲル展 画家一族150年の系譜』を観てきました。
1枚ずつの絵の素晴らしさもさることながら、キュレーションの見事さで大満足な展示です。
絵画ファンはもちろん、おうちに1枚でも絵や写真があるっていいよね・・・という方には絶賛おすすめします。
Contents
ブリューゲル展 画家一族150年の系譜とは
16・17世紀のヨーロッパ絵画界において圧倒的影響力を持っていたブリューゲル一族。
『ブリューゲル展 画家一族150年の系譜』は、初代ピーテル・ブリューゲル1世の”DNA”が子・孫・ひ孫にどう受け継がれ、そして、独自性を発揮していったか、その150年をパノラマ的に紹介しています。
とても興味深く、そして、気持ちのよい、大満足な展覧会です。
日本初公開のプライベートコレクションがたっぷり!
今回の展覧会で特筆すべきは、何と言っても普段は見る機会のないプライベートコレクションをたっぷり鑑賞できることです。
プライベートコレクション=個人蔵なので、普段は美術館には並んでいません。
出品作品リストによると全101点のうちなんと96点が”個人蔵”!
この機会を逃したら、次のチャンスはないであろう作品が一挙に来日しています。
より楽しめるように工夫された展示
作品を観て回るだけでも十分に満足な展覧会ですが、より深くブリューゲル一族の世界を楽しめるように展示が工夫されていて、さらに興味深いものとなっています。
3つご紹介しましょう。
興味深い映像解説
いくつかの作品の「なるほど~」な映像解説がより深い鑑賞をサポートしてくれます。
2Fの展示(第6・7章)は2/18まで撮影OK!
プライベートコレクションならでは企画と言えますが・・・
一部の作品は2/18までの期間限定で撮影OKです。
ただし、フラッシュ・三脚・セルフィースティックの禁止や他の来場者への迷惑にならないこと、また混雑時には中止などの注意事項がありますので、会場にてご確認ください。
すべての作品に親子関係がわかる表示系譜
絵画史に詳しい人ならともかく、名前だけでブリューゲル一族の誰なのか関係がわかる方は少ないと思います。今回の展示では、1枚ずつすべての作品に親子関係がわかる表示があります。
一族の伝統とそのひとりずつのオリジナリティを伺い知る上でとても参考になりました。
『ブリューゲル展 画家一族150年の系譜』Inaのレポ―ト
『ブリューゲル展 画家一族150年の系譜』は4世代にわたるブリューゲル一族の作品101点が7章構成で展示されています。
- 第1章 宗教と道徳
- 第2章 自然へのまなざし
- 第3章 冬の風景
- 第4章 旅の風景と物語
- 第5章 寓意と神話
- 第6章 静物画の隆盛
- 第7章 農民たちの踊り
では、私Inaが感じたブリューゲル一族の魅力を備忘録的に好き放題語ります。
第 1 章 宗教と道徳
音楽の冒頭と同じように、展覧会の一枚目の絵というのは、その展覧会を象徴するインパクトあるものですが・・・、
いきなり、『キリストの復活』でした。
基礎知識として・・・
ブリューゲル一族の祖ピーテル・ブリューゲル1世が生きた16世紀半ばは、カトリックとプロテスタントの宗教対立抜きには語れません。
ピーテル1世はヒエロニムス・ボスの様式を吸収し「第二のボス」と呼ばれました。
とは言え、キリスト教的な善悪の価値観をはっきりと表現したボスに対し、ピーテル1世は、達観的視点で現実を見つめ、表現しました。
会場の解説にはこうあります。
現実の世界と人々を観察する能力は一族へと引き継がれていく。多少の皮肉を込めつつもより親しみのある目で人々の営みを観察し、忠実に描き出そうとしている。彼のその「観察眼」は2人の息子へ、そして子孫たちへと受け継がれ、150年に及ぶ類まれな芸術伝統を確立していくのです。
第2章 自然へのまなざし
この第2章では空や河・湖の「青」の美しさが印象に残ります。
次男のヤン1世作(?)と言われる『アーチ状の端のある海沿いの町」に描かれた柔らかな光と幻想的風景は、この1枚のためだけでも訪れる甲斐があったと思うほどに魅了されました。
自然というテーマは、この時代のネーデルランド美術を特徴づけるものです。
同時代のイタリア・ルネサンスが人間そのものと人間の美徳を好んで表現したのに対し、宗教改革の中心のひとつだったネーデルラントでは大自然への畏敬へと関心が移っていきます。
世界のあらゆる要素を合成したという意味で「世界風景」と呼ばれる絵画が発達していきました。
『種をまく人のたとえがある風景』は、新約聖書の有名な聖句「種をまく人のたとえ」を描いていますが、観た瞬間には風景画にしか見えず、キリストとその教えを聴く人々は言われないと目を留めないほど小さく描かれています。
それは、無限の世界とキリストの教えが世界へ広がっていく様子を表すかのようでした。
第 3 章 冬の風景
北ヨーロッパの厳しい冬を描いた絵画たちが並ぶこの部屋で、印象に残ったのは、ヤン・ブリューゲル2世『スケートをする人々がいるフランドルの農村』、『冬のフランドルの農村』です。
厳しい冬に生きる人々への「愛」あふれるまなざしに感動します。
『キリストの復活』で始まっている今回の展覧会ですが、その理由ブリューゲル一族がキリスト教的愛や信仰といったものを何より大切にしていたことが伺われます。
ブリューゲル一族が歴史に名を遺す存在となったのは、信仰厚いものへのいわば”祝福”だと思わずにはいられませんでした。
有名な『鳥罠』は、映像解説付きで楽しめます。
第 4 章 旅の風景と物語
16世紀半ばからの時代、船は貿易による富や未知の品々、新しい情報をもたらす冒険の象徴で、都市の発展を示すモティーフとして好まれました。
素描が中心ながら、帆船の絵が並びます。
第 5 章 寓意と神話
ヤン・ブリューゲル2世が得意とした寓意画や神話画がたっぷり楽しめます。
対比的に並べられた組合せが興味深いです、たとえば、
- 『平和の寓意』と『戦争の寓意』(ヤン・ブリューゲル2世)
- 『嗅覚の寓意』と『聴覚の寓意』(ヤン・ブリューゲル2世)
- 『四代元素‐大地、水、大気、火』(アンブロシウス・ブリューゲル)
特に、「嗅覚の寓意』と『聴覚の寓意』は「なるほど~」な映像付き解説でぐっと深く見入ってしまいました。
第6章 静物画の隆盛
「花のブリューゲル」とも呼ばれるヤン・ブリューゲル1世は花の静物画という分野を開拓した先駆者です。
そもそも、この時代に花の静物画が流行したのは、トルコからやってきたチューリップです。この時代のいわば「チューリップ投機」は史上初の経済バブルとまで言われるほどの影響を社会に与えました。
ということで、花の絵がいっぱいのこの部屋、2/18まで撮影OK!
(注意事項あり、会場にて要確認)
コラージュにてご紹介します。
花が咲けば、蝶や蜂が舞う・・・
ということで、ひ孫にあたるヤン・ファン・ケッセルは虫の絵を得意としました。その正確で精緻な描写には驚かされます。
第 7 章 農民たちの踊り
ブリューゲル一族の祖ピーテル・ブリューゲル1世は農民の日常を描き、「農民画家」と呼ばれますが、それは宗教画が中心のこの時代に革新的なことでした。
今回の展示からは、素朴な農民たちとその日常に人間の本質への深い洞察と彼らへの愛に満ちたまなざしを感じます。
この部屋も、2/18まで撮影OK!です。
ピーテル・ブリューゲル1世『野外での婚礼の踊り』
ピーテル・ブリューゲル2世『聖霊降臨祭の花嫁』
敬虔な信仰で祝福に預かったブリューゲル一族
今回の展覧会を通じて感じるのは、ピーテル1世のまなざしがあふれる愛に満ちていることです。それはキリスト教の大切な教えである「隣人を自分と同じように愛しなさい」や、「いと小さき者の一人にしたのは、すなわち私にしたのである」に通じるものだと感じました。
この展覧会の1枚目が『キリストの復活』で始まっているのはそういうことだと勝手に思っています。
ブリューゲル一族に引き継がれていったのは、いわばその深い信仰ではないでしょうか。そして、その人として大切なものがあったからこそ独自の画風を開花し、広く愛された・・・
ブリューゲル一族の当時の繁栄と、作品が時代を超えてなお人々に愛されるのは、神からの祝福だと想うのでした。
展示室を出て2Fロビーからの眺め。。。
観てまわるだけですがすがしい気分になりました。
絵が好きな人は、レベル関係なくお散歩気分で出掛けても絶対に楽しめます。
ぜひ、どうぞ。。。
ブリューゲル展 画家一族150年の系譜 開催概要
【会期】2018年1月23日(火)~4月1日(日)
【休室日】月曜日、2月13日(火)
※ただし、2月12日(月)は開室
【開室時間】9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
*夜間開室:金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
【会場】東京都美術館 企画棟 企画展示室
【特設ホームページ】http://www.ntv.co.jp/brueghel/