NHKドキュメンタリー「もうひとつのショパンコンクール」は5年に1度ポーランド・ワルシャワで開催されるショパンコンクールの裏側で繰り広げられるピアノメーカーと調律師たちの熱い闘いを描いた番組です。
ピアノという作る人も使う人も強いこだわりのある商品を売るビジネスとして見ると、本当に面白い!
ということで「もうひとつのショパンコンクール~ピアノ調律師たちの闘い~」を見て、私Inaが思ったこと、感じたこと、考えたことです。
Contents
ショパンコンクールの舞台裏で繰り広げられるメーカーの闘い
ショパンコンクールでコンテスタントが演奏するピアノとして選ばれた4社のピアノメーカーの闘いとは、
多くの参加者に自社のピアノを選んでほしい。
願わくばその中から優勝者を出したい。
というものです。
ショパンコンクール公式ピアノ4社の特徴
簡単に番組内でのことばを借りて各社の特徴をまとめましょう。
- スタインウェイ
世界にピアノメーカーたくさんありますが、その中で質・規模ともに最高峰を誇る。 - ヤマハ
弾きやすさと豊かな響きで広く支持されている。 - カワイ
まろやかな重低音が支持され、ヨーロッパで根強い人気がある。 - ファツィオリ
創業34年のイタリアの楽器。明るくクリアな音色が特徴。
以下、一社ずつ好き放題語ります。
勝手な思い込みは自滅を招く~ファツィオリ
イタリアの新しいメーカーファツィオリは、ダニール・トリフォノフが2010年のショパンコンクールで選び3位に入賞、その後、2014年のルビンシュタインコンクールで3位までを独占したことで話題になりました。
社長は元ピアニストです。
自身の理想とするピアノを創りたい!と創業し、年間120台しか生産しない、究極までこだわって生まれたピアノです。
コンクールを担当した調律師さんは、「ショパンには温かく柔らかく優しい響きが合う」と考え、そのようにピアノを仕上げたのですが・・・
なかなか参加者に選んでもらえません。
そこで急きょ、アクション(ピアノの鍵盤から弦をたたくハンマーなど一連の機構部)を取り替えます。
そうして、やっと1人の参加者に選ばれました。
私は、敗因をこう考えています。
「ショパンにはやわらかく温かみのある音が似合う」というのは、調律師さんの思い込みです。これが2つの意味でいけなかった。
ひとつは、ピアニストの中にはそう考えていない人がたくさんいます。
特にコンクールという場で多くのコンテスタントが重要視するのは、アピール力です。印象に残る演奏をしたい!そんな切実な願いに叶うピアノを求めるのです。
もうひとつは、楽器のパフォーマンスが最高に発揮されている状態というのが、ピアノのベストな状態です。
急にアクションを取り替えてにわか調整するというのは、無茶です。
それは、たとえば、真夏のサンドレスが似合う小麦色のお肌を、一晩で雪のように白くして夜会ドレスが似合うようにしようとしているのに似ています。
そもそも、ファツィオリは、明るくクリアな響きが特徴なのです。
温かく柔らかく優しい響きを好む人は他者のピアノを弾けばいい!と割り切ってファツィオリ特有の明るい響きに自信を持つべきでした。
そもそも優勝を狙う人が選ぶピアノではない~カワイ
日本のメーカーカワイは78人中11人の参加者に選ばれ、5名が一次通過、2名が二次通過しました。
カワイは、やわらかい響きを好む人たちに一定の支持を受けています。
けれど、カワイのピアノはタッチに軽妙さがないという欠点があります。
それゆえ、聴き映えのする華やかな演奏を志向するピアニストには敬遠される向きがあります。
コンクールの優勝者というのは、やはり華があり、目立つものです。
そういう、コンクールの優勝者にふさわしいとされるキャラのピアニストは、概してカワイを選びません。
実際、今回もセミファイナル(三次予選)まで進み注目されていたロシアのガリーナ・チスチャコーバ は、落ち着いた味わい深い演奏をするとてもいいピアニストでしたが、ファイナルに残ることができませんでした。
無理からぬことです。
私の意見は・・・
カワイが、本当に名だたる国際コンクールで優勝者を出したいなら、今までのこだわりを一新して優勝キャラを持ったピアニストはどういうピアノを好むのか、リサーチして根本から作り直すことです。
そうでないなら、コンクール優勝にこだわらず、いい演奏をするピアニストを応援することですが・・・
そもそも、カワイが地味な印象があるのは、資金的な理由があります。
ゆえに・・・(以下略)
とは言え私のピアノはカワイです。柔らかい響きが好きです。。。
伝統が積み上げたものは遠かった~ヤマハ
ヤマハは、カワイと違いビジネスはうまいです。
目的のためには、手段を選ばないこともあり、かつて2002年頃世界中の顰蹙をかったこともあります。
また、コンクール用の楽器を特別にあつらえ生産することも知られていてアンフェアだという声もあります。
今回は、78人中36人に選ばれ、7人がファイナルに残るというかつてない快挙でした。
その中で、2位に入賞したカナダのシャルル=リチャード・アムランはこう言っていました。
勝ち抜くには、練習やトレーニングだけでなく、運も必要。
ヤマハのピアノは癖がないので、自分の個性を100%出せるのです。
実は、ヤマハのピアノは誰が弾いてもそれなりにいい音がします。
たとえば、スタインウェイは、あらゆる意味で揺るぎない技術の持ち主が弾かなければ鳴りません。その意味でヤマハには安心感があります。
けれど、スタインウィエの伝統に支えられた圧倒的な品質にはかないません。
ヤマハを選んでファイナルに進出した7人のうち、2人が直前にスタインウェイに変更しました。
無難ではあるけれど、最高ではないヤマハ。
難しいけれど、最高を目指せるスタインウェイ。
最後まで来たら、賭けたいですよね。
ヤマハが、大きな国際コンクールの優勝者を出したいなら、お金では手に入らないものを大切にすることでしょう。
スタインウエイの凄さは、独特の気品にあります。
最上級を求め、中途半端を寄せ付けない気位の高さが魅力でもあります。
あれは、工業製品としてうまくできているだけではなく、自分たちは一流のピアニストが弾くピアノを作っているのだというプライドから生まれる「香り」ではないかと思います。
最高の品質とブランドを育てた~スタインウェイ
スタインウェイのピアノを担当した調律師は、コンクール会場であるワルシャワのホール専属調律師でした。
会場もピアノも熟知した調律師は、余裕です。
彼は言いました。
スタインウェイの響きは普遍的なものです。
一流のピアニストはスタインウェイを選ぶはず・・・という自負さえ感じられます。
スタインウェイが世界最高峰に君臨し続けているのは、いくつか理由があります。
ひとつは、ニューヨークに本社があるため1900年代前半の2つの大戦で壊滅的な打撃を受けなかったこと。ヨーロッパのピアノメーカーは、大戦により工房も技術者もその多くが失われました。
また、アメリカという新しい豊かな国にあったため、早くから大ホールに対応するピアノを開発してきたことにもよります。そもそもヨーロッパでは、ピアノはサロンの楽器でした。
スタインウェイの成功は、運と先見性にあると言えるかもしれません。
ピアノメーカーがナンバーワンを目指すには
コンクールの優勝者を出すという目標を考えた時に、スタインウェイは不動として・・・
私は、ファツィオリには可能性がかなりあると思っています。
ファツィオリは、とても個性の強い楽器です。
その個性が合うピアニストには最高のパートナーになるでしょう。
実際、2010年のショパンコンクールでファツィオリを弾いて3位になったトリフォノフは、とてもよかったです。
まとめ
ファツィオリのピアノは実は、とても高価です。
(スタインウエイより高いはず・・・)
結局、いいものを作るには資金が必要。。。
カワイはそこを何とかしないと今のまま・・・
逆にヤマハはお金で手に入らないものの意味や価値を考えた方がいい・・・
そんなこんなを考えたショパンコンクールの裏側でした。
好き放題書きました。。。
ビジネス書で理論を学ぶのもいいですけど、現実から学ぶこと多いですよね。
BS1スペシャル「もうひとつのショパンコンクール~ピアノ調律師たちの闘い~」NHKオンデマンドでも鑑賞できます。
⇒こちら
ピアノやコンクールのことがわかったらもっと楽めるかも、という方はこちらをどうぞ。