BS1スペシャル「もうひとつのショパンコンクール~ピアノ調律師たちの闘い~」
2015年10月にワルシャワで開催されショパン国際ピアノコンクールの裏側でピアノメーカー4社と調律師たちの闘いをドキュメントした番組。
ピアノという、作る人も使う人もこだわりの強い商品をめぐる「ビジネス」という視点で見るととても面白いです。
音楽の知識は全く不要!
単にドキュメンタリーとして楽しめます
でも、背景を少し知っていると10倍楽しめるし、ヒントも沢山見つかる!
ということで・・・、
Inaによる「もうひとつのショパンコンクール」を楽しむための講座です。
始まり、始まり~♪
世界のピアノコンクール事情
多くのスポーツ選手の夢がオリンピックであるように、ピアノの世界にも夢の舞台があります。
世界三大ピアノ国際コンクールと呼ばれるこの三つです。
- チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門
4年に一度、6月頃モスクワで開かれる。 - エリザベート王妃国際音楽コンクール。
ピアノ部門はだいたい3~4年に一度、5月頃ブリュッセルで開かれる。 - ショパン国際ピアノコンクール。
5年に一度、ショパンの命日10月17日が本選前になるようにワルシャワで開かれる。
中でも、ピアノの詩人と呼ばれるショパンの名を冠したショパンコンクールは、すべてのラウンドでショパンの作品だけを演奏するコンクールです。
ショパンを愛するピアニストには、夢のステージなのです。
ピアノメーカーのコンクールへの想い
コンクールは、ピアニストたちの最高の登竜門というだけではありません。
実は、ピアノメーカーたちにとっても熾烈な闘いが繰り広げられるのです。
コンクールのステージで演奏されるピアノは、2015年ショパンコンクールの場合、この4社各1台から選ぶことになっていました。
- 創業180年、ハンブルグとニューヨークに拠点を持つスタインウェイ。
- 1981年にイタリアで創業したファツィオリ。
- ヤマハ。
- カワイ。
メーカーにはこんな思惑があります。
1人でも多くのピアニストに選ばれたい!
願わくばその中から優勝者を出したい!
ショパンコンクールの優勝者が選んだピアノというのをステータスにして、ブランド価値を高めたい!
そのブランド力で一般ユーザーをひきつけ、販売拡大を狙おうというわけです。
(それだけじゃないですけどね)
そこで自社のプライドをかけ、自社が誇る最高のピアノと、そのピアノを最高の状態にする選り抜きの調律師をコンクールに送り込みます。
ピアニストを活かすも殺すも調律師次第
ここで、意外に知られていないピアノと調律師の関係について解説しましょう。
ピアノという楽器は、掃除機や冷蔵庫のような製品と違い、一台一台みんな違います。
それは、「人間」とひとくちに言っても、一人ひとり違うのに似ています。
メーカーの違うピアノというのは、人種や国籍が違う「人」に似ています。
つまり、日本人、アメリカ人、ロシア人・・・とカテゴライズされても、その一人ひとりが違うように、ひとくちに、カワイのピアノ、ヤマハのピアノ、スタインウェイのピアノと言っても、一台一台みんな違います。
メーカーの違いがピアノの特性や傾向となり、一台一台にはそのピアノの個性がある・・・
ざっくり言ってしまうとそんな感じです。
そして、ピアノは、道具なので手入れが必要です。
すなわち、調律です。
ひと言で調律と言っていますが、実際には、ピアノを整える作業は3つあります。
- 整調-鍵盤を操作しハンマーが弦をたたく一連のアクションを整える作業。
- 整音-音質や音色を整える作業。
- 調律-音のピッチを整える作業。
どんなにいいピアノであっても、そのピアノを生かすも殺すも調律師次第です。
いい調律師に出会えるのは、ピアニストにとって、かけがえのないパートナーに出会える、この上ない幸せなのです。
だから、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(1920年1月5日 – 1995年6月12日、イタリア)のように、調律師とともに世界中を演奏旅行する人もいました。
ピアノとピアニストと作品には相性がある
そして、重要なポイントはピアノとピアニストと作品の相性です。
俳優に合う役があり、スポーツ選手に得意なポジションやプレーがあるように・・・
野球選手が、バットやグローブ、シューズにこだわるように・・・
ピアニストにも、得意な曲や、その人ならでは持ち味があります。
そして、ピアニストが音楽や作品に求めるものによって、好む楽器が違います。
したがって、10人いれば、ピアノの好みも10あるのです。
だから、コンクールでは数種類(大体4種類)の異なるメーカーのピアノを選べるようになっています。
メーカーは優勝者に自社のピアノを選んでほしいと書きましたが、実は「優勝できるタイプ」というのがあります。
こういう舞台に出てくる人は、基本的にあるレベルには達しています。その先は、うまい下手より、運とか、優勝者にふさわしいキャラという面があるのは否めません。
したがって、本当に優勝者に選ばれたいなら、優勝キャラを持った人に選ばれるピアノを作らなければないない・・・というのが私の考えですが、そこは、楽器メーカーのこだわりとか、色々あって、面白いのです。
そこも番組の見どころです。
ちなみに・・・
ショパン自身はプレイエルというフランスの楽器を愛していました。
今でも、プレイエルはありますが、(年配の)調律師さんに言わせると、昔の良さはないとのことです。
ヨーロッパは1900年代前半の2つの大戦によって大きなダメージを受けました。
特に、ブリュートナーなど、旧東ドイツのピアノメーカーはその後の共産圏時代の経済状況もあって、伝統とクオリティを保つことができませんでした。
残念なことです。
まとめ
以上、「もうひとつのショパンコンクール」を10倍楽しむ予備知識でした。
ではまとめます。
- ショパンコンクールとは、世界三大ピアノコンクールのひとつ。
(オリンピックのピアノバージョン) - ピアノメーカーはショパンコンクールの優勝者に選ばれるピアノを目指し、送り込まれた調律師はその使命を背負っている。
- ピアノにはメーカー毎に傾向や特性があり、人間と同じように一台一台に個性がある。
- ピアノを生かすも殺すも調律師次第。
- ピアノとピアニストと作品(作曲家)には相性がある。
ピアノも、ピアニストも、こだわりのかたまりです。
こだわりとビジネスという視点でこの番組を見ると本当に興味深いです。
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BS1スペシャル「もうひとつのショパンコンクール~ピアノ調律師たちの闘い~」は、NHKオンデマンドでも鑑賞できます。
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