ハプスブルグ家稀代のコレクター
好奇心のコレクター ルドルフ2世
究極の趣味人のワンダーランド・・・
まるで”オタク”扱いなのは、渋谷という場所柄?・・・
『神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展』|Bunkamuraを観てきました。
”政治に関心のない変人”と言われたルドルフ2世ですが・・・、
単なる”オタク”としてコレクションに走ったというよりも、彼は心底”ユートピア”を目指して芸術と学問を愛したのではないかと、私は感じました。とても興味深い展示でしたよ。
備忘録を兼ねたレポです。
Contents
神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展とは
『神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展』という長~いタイトルは、そのままこの展覧会の概要を表しています。
神聖ローマ帝国とはローマ教皇に認められたローマ皇帝の国
世界史的に簡単におさらいすると・・・
神聖ローマ帝国とは、
9~10世紀に成立し、1806年まで続いた現在のドイツ、オーストリア、チェコ、イタリア北部を中心に、ローマ教皇に即位を認められたローマ皇帝を君主とした国家。(Wikipedia参照)
です。
ローマ教皇=カトリックのトップですから、神聖ローマ帝国はカトリックの国ということになります。
強大な帝国の中心ハプスブルグ家
その長い歴史の中でオーストリアを中心に強大な帝国を創り上げたのがハプスブルグ家です。
神聖ローマ帝国およびオーストリアの王家。10世紀なかば南ドイツに興り、13世紀以降しばしばドイツ国王に選ばれ、1438年から1806年まで神聖ローマ皇帝、また1918年までオーストリア皇帝を占め、その間1516年から1700年までスペイン王、1867年以降はハンガリー国王を兼ねた。(コトバンク デジタル大辞泉より)
神聖ローマ帝国の絶頂期に皇帝を出し続けたのがハプスブルグ家なんですよね。
ルドルフ2世によるプラハ遷都
神聖ローマ帝国の帝都は基本的にウィーンですが、ルドルフ2世(1522-1612)は、即位から7年目の1583年に帝国の首都をウィーンからプラハへ移しました。
その理由は、主に3つと言われています。
その1. 宗教対立
そもそもカトリックの国である神聖ローマ帝国ですが、宗教改革によっておこったプロテスタントとの対立が激化していました。
その2. 政治問題
弟や親族との確執、トルコからの脅威。
その3. 宮廷の息苦しさ
ハプスブルグ家という由緒ある家柄と皇帝という地位は、もれなく自由を奪います。またルドルフ2世は生涯独身でしたが、後継者問題から逃れることはできません。そんなプレッシャーから逃れたかった。
要するに、現実逃避か?!
”政治に関心のない変人”との汚名を着せられてしまったルドルフ2世ですが、11か国語を操った教養人である彼は、芸術と学問をこよなく愛し、自身の強大な力を”芸術と学問”に注いでその発展に計り知れない功績を遺しました。
世界とともに広がったルドルフ2世の世界
ルドルフ2世の時代は大航海時代としてヨーロッパが大きく広がった時代ですが、ルドルフ2世の旺盛な好奇心は、そんな時代的空気の中でさらに大きく膨らみ、膨大な”ルドルフ2世の世界”が出来上がりました。
今回の展覧会はそんな視点で構成された興味深いものでした。
- プロローグ|ルドルフ2世とプラハ
- 第1章|拡大される世界
- 第2章|収集される世界
- 第3章|変容する世界
- エピローグ|驚異の部屋
- 特別展示|フィリップ・ハース
特に印象に残った作品とともに私感を綴ります。
Bunkamuraザ・ミュージアム前にて。。。
私感~神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展
プロローグ|ルドルフ2世とプラハ
会場に入ると、まずはルドルフ2世の胸像自らお出迎えしてくれます。
「何様?!」な雰囲気はさすがです。
ハプスブルグ家の歴代皇帝の肖像が並び、その雄姿から帝国の繁栄に想いを馳せます。
第1章|拡大される世界
大航海時代と言われる15世紀半ば以降のヨーロッパは、単に領土の広げようとするだけではなく、未知なる世界への探検が盛んになり、それまでに知られていない動物や植物、そして鉱物などが発見されるようになります。
ルドルフ2世の関心は、単に自分の住む世界にとどまらず、天文学や占星術にも向けられました。ティコ・ブラーエ、ヨハネス・ケプラーがお抱えの天文学者として迎えられ、天文学の発展に重要な役割を果たしたのです。
天文学の教科書やガリレオ・ガリレイの望遠鏡(複製)も展示されています。
私が、このコーナーで最も印象的だったのは、ヒリス・ファン・ファルケンボルフ『アレクサンドロス大王との戦いの後、逃げるペルシア王ダレイオスのいる風景』。
会場内の解説によると
寓意的テーマと空想的情景はルドルフ2世の趣味。
とありましたが、ルドルフ2世は妄想癖と言ってもいいほどの夢想家だったのでしょうね。
錬金術ブームを象徴するようなマールテン・ファン・ファルケンボルフ『峡谷の眺望』も素晴らしかったです。
第2章|収集される世界
ルドルフ2世の収集は芸術作品だけでなく、動植物も対象とされ、植物園や動物園を設けました。
お抱え画家の一人、ルーラント・サーフェリーの以下3枚の絵が並んでいる壁は見事でしたね。
- 『動物に音楽を奏でるオルフェウス』
- 『大洪水の後』
- 『鳥のいる風景』
私としては、今回の展示一番のクライマックスでした。
今回の見どころのひとつとして紹介されているヤン・ブリューゲル(父)『陶製の花瓶に生けられた小さな花束』は、あらゆる季節の自然を1度に表現した小宇宙として、46の植物と12の昆虫類が描かれています。
当時の人々の好奇心と試みを象徴するような興味深く美しい絵画です。
第3章|変容する世界
自然の正確な描写だけでは、芸術家も鑑賞者も完全なる充足を得ることはできない。
神による想像、万物存在の神秘や謎の解明に立ち向かうことこそ芸術活動上最も困難で魅力駅な道程・・・
会場内でのパネルの解説、しびれたのでメモしました。
このコーナーの見どころはアルチンボルトということになっているのですが・・・
実は、私、アルチンボルトが苦手なのです。
果物や花は”果物”や”花”として見たいというのが無意識にありまして、アルチンボルトの果物や花で描かれた人物画を見ていると妙な気分になってくるんですよね~。
ということで、アルチンボルトについては公式サイトなどを参照してください。
私的にこのコーナーでのお気に入りは、以下の3作品です。
- ヤン・ブリューゲル(子)/ヘンドリック・ファン・バーレン『大地と水の寓意』
~空と水の青色の素晴らしさに目を奪われます。 - バルトロメウス・スプランガー作のコピー『オリュンポスへと芸術を導く名声』
~こういう寓意的な絵は見ていて飽きません。 - ディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェスタイン『ルドルフ2世の治世の寓意』
~迫力ある大きな作品はこの時代ならではの栄華を感じ、いつもながら豊かになります
芸術は富が育てる・・・
名画に囲まれる度に想うことです。
エピローグ|驚異の部屋
「驚異の部屋」とは、ドイツ語で”Wunderkammer”と言い「不思議の部屋」とも呼ばれます。コレクションを収集・展示・保管している部屋のことで、現在の美術館や博物館の原型となりました。
当時の科学と技術の粋を結集した煌びやかなで精巧な品々に時空を超えてロマンを感じます。
特別展示|フィリップ・ハース
最後は、映画監督&現代美術家のフィリップ・ハースの作品でした。
アルチンボルドの作品が三次元になったような、植物モチーフで人物を表現したもので、写真撮影が可能です・・・が、アルチンボルトが苦手な私は、ハースも・・・(以下略)。
Bunkamuraザ・ミュージアム前にて。。。
ルドルフ2世は芸術の力を信じていた
ルドルフ2世は芸術が人々の文化レベルを高めると信じていた。
会場内で流れていたビデオ番組『神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世 究極の趣味人のワンダーランド』より
今回の展覧会を観て私が思うのは・・・
ルドルフ2世は、単なる”オタク”ではなかったということ。
彼が政治に関心がなかったのは、彼を取り巻く人々が自分の利害にしか関心のない愚かにしか見えず、辟易していたからではないでしょうか。
政治っていつの時代も権力争いですよね。
権力争いには関心がなかったけれど、世界への関心は限りなく広く深かった。
ルドルフ2世は、11歳の時に叔父であるフェリペ2世に預けられ、11か国語を操る教養人に成長しました。皇帝という自分の立場について考えていなかったとは思えません。
世界には面白いもの、美しいもの、素晴らしいものが沢山あり、それらを生み出す人々の方が政治家よりも彼には魅力的だった。そして、それが人々のためになると信じていたのでしょうか。
1597年、47歳のルドルフ2世は”手仕事”だった絵画を”芸術”へ格上げする勅令を出しました。
彼は政治駆け引きの虚しさと芸術の不滅の力を知っていて、自分にできるささやかな抵抗として芸術と学問に生きたのではないかと思いました。
実際、神聖ローマ帝国は滅んでも彼が愛した作品たちは生き続けていますよね。。。
・・・彼のことをそう想う人間が一人くらいいてもいいのではないかと思います。
コンパクトながらよく考えられた構成と厳選された展示品でとても楽しかったです。
ぜひ足を運んで、ルドルフ2世の世界に浸ってリッチになってくださいね。
開催概要
神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展 | Bunkamura
【公式サイト】神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展
【開催期間】2018/1/6(土)-3/11(日)
*1/16(火)、2/13(火)のみ休館
【開館時間】10:00-18:00(入館は17:30まで)
*毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)