自分の信じるところに従う|私のピアノ物語 vol.4

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手の痛み、テクニックの問題とアガリ症に悩みながら、人一倍の頑張りで責任を果たすも、30代後半に限界を迎え、フォーカル・ジストニアを発症・・・

曲を弾くどころか、練習さえできず、

「ド・レ・ミ・ファ・ソ・・・」

と5本の指をふつーに動かして音を鳴らすことすらできない時に偶然見つけた「アレクサンダー・テクニーク」の本に活路を見出し、クラシックバレエや禅の思想や瞑想によって心と身体は切り離せないという大前提を認識し、3年間のブランクを経て練習できるようになり人前で弾き始め順調に復活かと思いきや・・・

問題はそう単純ではありませんでした。

二度目の暗黒時代を経て、再び人前で弾くようになるまでを綴ります。

 

はじめから読みたい方はこちらからどうぞ。

ピアノとの出会いからピアノの先生を志すまで|私のピアノ物語vol.1

弾きたいのに弾けない・・・必然だった最初の挫折|私のピアノ物語vol.2

心と身体は切り離せない|私のピアノ物語vol.3

 


この記事を書いた人
伊奈葉子 / Yoko Ina Piano Teacher

自分の手で演奏できるのが何よりの喜びです。ピアノ・音楽、自然とアートとお茶時間をこよなく愛しています。詳しいプロフィールはこちら


鍵盤の底に指が当たらないと弾いた気がしない・・・

アレクサンダー・テクニークのレッスンで身体と心は切り離せないことを体感し、人間の動きがどうやって生まれるのかというメカニズムを学び・・・

クラシックバレエのレッスンで身体の使い方や音楽と動きの関係を学び・・・

禅の思想や瞑想で心をコントロールするということを学び・・・

練習できるほどに指が動くようになって、とにもかくにも人前で弾き始め、

さあ弾くぞ~!

と張り切って練習すると、やはり指の調子は悪くなり、動かなくなりました。

 

おかしい、なぜだろう?

 

この頃には、以前と違い、(パニックにならず)自分のことを冷静かつ客観的に眺めて考えられるようになっていました(大きな進歩です)。

 

そして、重大な欠点=癖に気づいたのです。それは

鍵盤の底に指が当たらないと気が済まない。
=鍵盤の底に指が当たる感触に頼って弾いている

ということでした。

 

ピアノという楽器は、鍵盤を押し下げることでハンマーが跳ね上がり、弦を叩いて音が鳴る楽器です。

ハンマーが鍵盤のコントロールを離れるのは、鍵盤の底から約1mm上なので、鍵盤の底に指を押し付ける必要は全くありません。

むしろ、エスケープメントレベルと呼ばれるポイント(グランドピアノなら手応えがあるポイント)を狙ってタッチすることに集中し、その後はできる限り余分な力は使わず、次の音へとつなげていけばいいのですが・・・

 

私の場合、子供の頃から長く教え込まれた

鍵盤の底までしっかり押さえる

という弾き方がしっかり沁みついていて、無意識のうちに鍵盤の底に指が着く感触を頼りに弾いていたのです。

指を鍵盤の底まで押し付けていると、意識もその音に留まります。いちいち鍵盤の底を確かめるようなタッチで弾いていては速いテンポの曲(パッセージ)が弾けるはずがありません。

気づいてしまえば当たり前のことなのに、どうしてそれまで誰も教えてくれなかったのか・・・愕然としました(今の私なら、聴けばわかります)。

 

弦楽器のボーイング練習、管楽器のロングトーン、ピアノには?

9歳の時にピアノのレッスンを始めた時から約40年間で出来上がった癖は、一朝一夕に治るものではありませんでした。

バッハ平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番のプレリュードのような音の少ないゆっくりのテンポの曲を弾いても、無意識に「指が」鍵盤の底に触れたがります。

頭ではもっと軽やかに弾むようなタッチで弾く方が伸びやかな音が生まれるということが頭の中で理屈として理解していても、指の方は鍵盤の底をしっかり触れないと気が済まない・・・

 

どうしたら必要十分な指の動きだけで美しい響きを生み出せるだろう・・・

そう考えていた時に、思い出したのは、管楽器のロングトーン練習や弦楽器のボーイング練習でした。

 

中学時代にアルトサックスを吹いていた時に毎日練習の初めには必ずロングトーンをしていたこと。

ヴァイオリンを弾いていた時にも、必ず開放絃のボーイングから始めました。

そして、声楽だって発声練習から始めます。

 

ところが、ピアノは基礎練習を言えば、ハノンやスケール&アルペジョです。

それも、いきなりダダダ・・・と凄いテンポで弾くか、ゆっくり弾くならfかffで大きな音で鳴らすことを求められるのが一般的です。私もずっとそう教えられてきました。

 

ピアノは弦や管と違って、鍵盤を押し下げれば簡単に音が鳴ります。

でも、その音と演奏のための本当に豊かで美しい響きとは違います。

歌は誰でも歌えるのに、声楽を習えばまず発声練習です。

 

本当は、ピアノも弦のボーイング練習や管のロングトーンや声楽の発声練習のような練習が必要なのではないか?

具体的にどういう練習をしたらいいのか・・・

聴いたこともないし、本にも書いてありませんでした。

 

根本的な解決策が見つからず暗中模索の日々

弦のボーイング練習、
管のロングトーン
声楽の発声練習・・・

ピアノにもそういう練習が必要なのではないかと思い、探してみたのですが見つかりません。

ふと周囲を見回してみても、そんなこと言う人は誰もいません。

 

・・・そもそもアマコンことアマチュア国際ピアノコンクールのファイナリストたちの中には、激務である本業のかたわら少ない練習時間で難曲を弾いてしまう人が沢山います。

人と比べるのは無意味とは言え、練習しても弾けない私、故障してしまった私には、ピアノを弾く才能は全くないのだと思い知らされました。

 

弾きたい曲は沢山あって、
こんな風に弾きたいというイメージだけはあるのに・・・

(指が鍵盤の底に当たらないと気が済まないという)こんな状態では弾けない・・・
でも、どういう練習をしたらいいのかわからない・・・

 

・・・子供の頃についてしまった「鍵盤の底までしっかり押さえて弾く」癖が諸悪の根源だということはわかるのですが、どうしたらいいのか根本的な解決策が見つからず、完全に行き詰って真っ暗な日々を過ごしました。

 

バレエに熱中したら音楽の素晴らしさに気づいた

こうして再びピアノに行き詰った頃、(当時79歳の)母が余命宣告を受けました。

母の介護を理由にレッスンを休止して介護に専念。医師の予告通り母は逝き、四十九日法要やお墓のことなど慣れないことでバタバタし、しばらくはぼ~っとしていました。

抜け殻のように半年を過ごした頃、ふと思いました。

ピアノを弾くモティベーションがないなら、(時間がある)今しかできないバレエをやろう。。。

週1回だったレッスンを週2回にして、公演にもそれまで以上に出掛け、うちでもDVDやYoutubeの動画を観たりして、バレエに熱中しました。

 

私にとってバレエは純粋に踊りとして楽しむ以上に《見える音楽》です。

音楽を人間の身体の動きで表現するとこういう動きになるんだな~と見ています。

 

ピアノから離れてバレエに熱中していたこの期間に、音楽についてそれまでと違う様々なイマジネーションやインスピレーションが湧いてきました。

バレエのレッスンで使われるCDはピアノ演奏ですが、クラシック音楽のピアノのレパートリーを編曲したものが沢山使われます。

自分の手で演奏することばかり考えている時には気づかなかった曲の表情を発見することも多く、音楽って何て素晴らしいのだろうとあらためて思うようになりました。

気づけばバレエのレッスンを受けながらも、音楽のことばかり考えていました。

 

・・・振り返れば、ピアノが大好きで、時間さえあればピアノに触れていたい私にとって、こうしてピアノから距離をとってピアノと音楽を考える時間が必要だったのだと思います。

 

自分の信じるところに従おう

バレエに熱中しながら、音楽の素晴らしさを再発見し、より一層ピアノを自分の弾きたいように弾きたいと思うようになり、そのためには一体どういう練習をしたらいいのだろうとずっと考え試行錯誤を続けました。

来日ピアニストたちのマスタークラス、日本音楽家医学研究会、古屋晋一先生のセミナーなどを聴講・受講したり、奏法に関する本を読んだり、それまでに学んだフィンガートレーニングやアレクサンダー・テクニークなど・・・あらゆるものを総動員して考え、試しました。

何より、一流アーティストの演奏会で味わう何物にも代えがたい感動はモティベーションを上げてくれました。

 

そして、こう思えるようになりました。

自分の信じるところに従おう。

それは、自分勝手に好き放題弾き散らかすという意味ではありません。

一般に常識とされていることや、今までに習ったことや学んだことにとらわれず、本質に適うことにチャレンジしていこうと思ったのです。

誰もやっていなくても、私自身が必要だと思うならやろうと。。。

 

そう考えられるようになったら、練習のアイディアが次から次へと浮かぶようになり、それにつれて弾けるようになり、活動の場を広げていきました。

 

ピアノを弾くってどういうことなのか

再びピアノを弾くようになったものの、根本的なところに今ひとつ届かないもどかしさがあり、悶々としていたのですが・・・

転機が訪れたのは2018年6月、ヴァディム・ホロデンコのリサイタルと公開クラスでした。

ヴァディム・ホロデンコ ピアノリサイタル2018|この世のものではない世界
世間はFIFAワールドカップ2018で盛り上がってますが・・・ サッカーがよくわからない私に(大迫選手と高校時代に対戦した選手の言...
ヴァディム・ホロデンコ公開レッスン2018|論理と客観、そして何より愛
6/26浜離宮朝日ホールのリサイタル翌々日で、 6/30大阪シンフォニーホールの前々日、 6/28にファツィオリジャパン株式会社ショ...

 

ホロデンコの、この世のものとは思えないリサイタルでの演奏を聴き、翌々日の公開レッスンでその秘密の一端を垣間見て、それまで”(誰も言わないしやっていると言わないけれど)こういう練習が必要なんじゃないか”と薄々感じていた練習をメニュー化して翌日から始めました。

それが現在の私のレッスンでお教えしているメソッドです。

ひと月、3ヶ月、半年・・・ほぼ日で続けるうちにそれまで悩んでいたことが氷解していきました。

たとえば、

  • はじめての会場&ピアノで、リハーサルなしで弾くのが怖くてたまらなかったけれど、そんなに心配しなくても大丈夫と思えるようになり、自分を信じて弾けるようになった。

  • 自分以外の人がひとりでも聴いていると緊張して指が震えて困ったけれど、(少しは震えるものの)大きく崩れることはなくなった。むしろ、緊張するとより集中できるようになりインスピレーションが湧いて演奏を楽しめるようになった。

  • ポリフォニーを弾く時に、声部のバランスや響きの変化が自然にできるようになり、より立体的な演奏ができるようになった。

  • p、ppでの伴奏音型で音がかすれることなく弾くことができるようになった。

  • f、ffのフレーズを力まなくても鳴らせるようになったetc…

 

ピアノを弾くとは、どういうことかと言ったら、

鍵盤に触れることで
ダンパーとハンマーの動きを
コントロールして
様々な響きを生み出し、
音楽を演奏する

ということです。

キーの、たった1cmの動きをいかに繊細に感じてコントロールできるか、それがピアノ演奏のためのタッチの基本です。

そのためには、

  • 弦楽器のボーイング練習
  • 管楽器のロングトーン
  • 声楽の発声練習

のような基本練習が必要です。

歌は誰でも歌えますが、声楽のレッスンでは必ず発声練習から始まります。

それは、オペラアリアやリートを歌うためにはふさわしい発声方法があるからです、。。

ピアノも、誰でも簡単に音を出すことができますが、演奏するための”楽音”を出すためにはそのための練習が必要なのです。

⇒ ピアノ・ベーシック・トレーニング&レッスン

ピアノ・ベーシック・トレーニング&レッスン
なぜ毎日ピアノの練習をするのでしょう? 答えはもちろん、 弾けるようになるため、よりいい演奏をするため、聴いて下さる方々と音楽を共...

今日の練習で明日の演奏が作られる

こうして現在に至っています。

 

世の中には、練習しなくても難曲が弾けてしまう人がいます。

でも・・・

練習しなければ弾けないなら、効果的な練習をしなければなりません。

今日食べたもので明日の身体が作られ、
健康な生活を送ることができるように、

今日の練習で明日の演奏が作られ、
その延長に本番がやってきます。

健康に食生活が大切なように、
演奏は日々の効果的な練習が必要です。

ピアノ教師は、生徒を正しく導かなければなりません。

やれば必ず上達する練習法を教えるのが仕事です。

痛みや故障で苦しむことなどあってはならないことです。

 

私は、
弾きたいのに弾けない、
練習しているのに弾けなくて、
故障&挫折も経験し、
長い間、本当に苦労しました。

根本的な解決を求めて研究と試行錯誤を重ねました。

自分の手で素晴らしい作品を演奏できることは何物にも代えがたい喜びです。

弾きたいのに弾けない、習しているのに弾けない、
本番の緊張で思うように弾けない・・・

そんな悩めるピアノ弾きのために、私は尽力していきます。。。

世界が豊かな音楽であふれることを願って。。。

ピアノ・ベーシック・トレーニング&レッスン
なぜ毎日ピアノの練習をするのでしょう? 答えはもちろん、 弾けるようになるため、よりいい演奏をするため、聴いて下さる方々と音楽を共...

 

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