松の内の穏やかな土曜日・・・
上野の東京文化会館へ、キエフ・バレエ『バヤデルカ』を観に出掛けました。
Contents
キエフ・バレエ~タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ
キエフ・バレエはウクライナ国立アカデミー・オペラ・バレエ劇場を本拠地として140余年の歴史を誇るバレエ団です。
旧ソ連時代には、ボリショイ劇場、マリインスキー劇場とともに三大劇場と称され、今もバレエ界をリードする多くのスター・ダンサーを輩出しています。
海外公演も盛んで、日本公演は1972年以降、数を重ねています。
素朴な舞台に踊りの美しさが際立つキエフ・バレエ
チラシには「豪華絢爛!」とありますが・・・
キエフ・バレエは、とても素朴です。
パリ・オペラ座や英国ロイヤルのような大がかりな舞台装置も、きらびやかな衣裳もありません。低予算の質素な舞台と言えば確かにそうです。休憩時間にどこかから「こんな地味なバヤデルカははじめて・・・」という声が聞えていました。
でも、私は、舞台や衣裳が素朴だからこそ、踊りそのものを落ち着いて楽しめます。ダンサーの動きの美しさが際立ちます。そのしなやかな踊りにイマジネーションを刺激され夢のような時間を味わえます。
素朴だから奥深い。
Simple is best!
・・・私はキエフの舞台を観る度に思います。
ビロードのように響くウクライナ国立歌劇場管弦楽団
キエフ・バレエのもうひとつの魅力はオーケストラの美しさにあります。特に弦楽器のビロードのように柔らかくつややかな響きは、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団独特です。
優しく降り注ぐ太陽のような温かいオケは、ゆったりとした時間の流れを生み出し、夢の世界へ誘ってくれます。
『バヤデルカ』
「バヤデルカ」は、一般には馴染みが薄いかもしれません。
あらすじを簡単に紹介します。
あらすじ
舞台は古代インド。
戦士ソロルは、バヤデール(寺院の巫女で舞姫)のニキアと愛し合っている。ところが、聖職であるはずの大僧正がニキアに関係を迫る。ニキアは拒絶。
領主ラジャは娘ガムザッティの婿にとソロルに申し出る。ソロルは、ガムザッティの美貌と名誉に目がくらみ、これを受け入れる。大僧正は、これを知りソロルを亡き者にしようと、ソロルがニキアの関係をラジャに知らせる。しかしラジャは、ソロルではなく、ニキアを亡き者にしようと考える。
ガムザッティは、ニキアにソロルが自分と婚約したこと告げ別れを迫る。ニキアは思わず剣をとりガムザッティに襲い掛かる。侍女が間に入って事なきを得るが、ガムザッティはニキアを消すように侍女に命令。
ソロルとガムザッティの婚約の宴で、ニキヤはバヤデール(舞姫)として踊るように命じられる。ニキアに贈られた花篭には毒蛇が隠されていて、ニキアはかまれてしまう。大僧正が解毒剤を差し出し、自分の愛を受け入れるようにニキアに迫るも、ニキアは拒絶して息絶える。
後悔にさいなまれ不眠に悩むソロルに、下僕がアヘンを差し出す。アヘンによって幻覚を見るソロルは、バヤデール(舞姫)の精霊たちの間にニキヤを見つける。ニキアを愛していることに気がついたソロルは、二度と裏切らないことを誓う。
現実に戻りソロルとガムザッティの結婚式が寺院で行われるも2人の結婚は神の怒りにふれ、寺院は崩壊。。。
あの世で、ニキヤとソロルは永遠に結ばれる・・・
『バヤデルカ』は2つのバージョンがある
実は、『バヤデルカ』には2つの上演バージョンがあります。
ロシアのバレエ団で上演される版
一幕:狩、寺院、ガムザッティの家
二幕:婚約式
三幕:影の王国
*夢の中でソロルとニキヤが結ばれて終わるので、寺院の崩壊シーンはありません。
一方、アメリカン・バレエ・シアター、英国ロイヤル・バレエなどで上演されるマカロワ版
一幕:狩、寺院、ガムザッティの家、婚約
二幕:影の王国
三幕:神殿崩壊
この日のキエフ・バレエは、当然ロシア版なので神殿崩壊がありません。
お正月から崩壊シーンというのも何なので、夢の中とは言え幸せに幕が閉じるのは新春らしくよかったです。
今年も夢を観ながら、幸せに生きる!と思いました。
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音楽が形になったらバレエになる・・・
さて、この日の私的感想ですが・・・
サラファーノフの「ソロル」はとても上品でした。
ソロルは戦士ですが、まるで「白鳥の湖」のジークフリートを彷彿させる優雅さです。そもそも全体がインドというよりせいぜい地中海どまり。それはこのサラファーノフの王子様ぶりによるかもしれません。
ペレンの「ニキヤ」がさすがの存在感と表現力で光っていました。
特に第二幕ソロルとガムザッティの婚約シーンでチェロのソロに乗ったニキヤのソロは、チェロとニキヤのパ・ド・ドウだと思うほどに音楽とのマリアージュが素晴らしかったです。
音楽は、踊りがなければパートナーのいない片割れのようだとさえ感じました。
そして、シャイターノワの「ガムザッティ」の憎たらしいほどの高慢さ。立っているだけで周囲を威圧するオーラってさすがです。
「影の王国」と呼ばれる第三幕で、舞台上手から整然と登場する精霊たちの時間の永遠を表す「アラベスク・パンシェ」がとても美しかったです。総勢32人!
こういうコールドを観ると、人に合わせることが苦手で集団行動が嫌いな私は涙が出るほど感動し、尊敬します。みんな、凄いよ!
そして、クライマックスはソロルとニキアが白いスカーフを使って踊るパ・ド・ドゥ。コンサートマスターの美しいソロが素晴らしく、音楽とバレエの蜜月をたっぷり味わいました。
このウクライナ国立歌劇場管弦楽団のコンサートマスターはいつもとても魅力的な演奏を聴かせてくれます。毎回思わずオケピットをのぞき込みたくなるほど・・・
姿は見えないもののオケピットからしっかりと素晴らしい舞台をつくる指揮者&オーケストラにも脱帽でした。
美しいプログラムを開くと感動が蘇ります。
『バヤデルカ』がマイナーな2つの理由
さて、上演には大満足な一方で、『バヤデルカ』がマイナーな理由について思いめぐらせました。
『バヤデルカ』は、「白鳥の湖」、「眠れる森の美女」、「くるみ割り人形」の三大バレエは言うに及ばず、「ジゼル」「ドン・キホーテ」よりも一般に知られていません。
今回、その理由が何となくわかったような気がします。
『バヤデルカ』のストーリーは「白鳥の湖」+「ジゼル」
まず、バヤデルカは、優柔不断な男ソロルに振り回される女ニキアの悲劇です。
それ、「白鳥の湖」のオデットに愛を誓いながら、オディールに落ちてしまうジークフリートや、「ジゼル」のアルブレヒトにだまされるジゼルと同じです。
夢(幻覚)の中でソロルとニキアが結ばれるのも、「ジゼル」の第二幕を彷彿させます。(「ジゼル」は生きているアルブレヒトと精霊ジゼルの不思議な踊りですけどね・・・)
なので、『バヤデルカ』を観ていると、ここは「白鳥の湖」と同じ展開だな~、ここは、「ジゼル」みたいだ・・・と感じてしまうのです。
そのうちに、じゃあ『バヤデルカ』って何だ???
ってことになります。
『バヤデルカ』の舞台はインドなのに音楽がエキゾチックじゃない
ストーリーは、男女関係のありそうな話なので、似たり寄ったりになるのは仕方ないとしても、音楽が似たり寄ったりではその作品の存在意義に関わります。
『バヤデルカ』は古代インドが舞台のはずなのに、そういう雰囲気が全くありません。
ふつーに美しいロマン派の調性音楽、完全なるクラシック音楽です。
しかも、どこかで聴いたことあるようなメロディーがいっぱい出てきて、その度に「これって何に似ているのだっけ???」と音楽のことを考えてしまいます。
『バヤデルカ』の作曲者はレオン・ミンクスは、『パキータ』、『ドン・キホーテ』の作曲者。このふたつはいずれも民族色豊かでとても個性的で感動的な音楽なのですが、それに比べると『バヤデルカ』はどうも二番煎じ的な気がします。
バレエは、音楽と踊りの芸術なのですから、インドが舞台ならインドの音階使ってインドらしくして欲しかったな~と思うのでした。どうして、ミンクスはインドの音階を使わなかったのでしょうね。
『白鳥の湖』があんなに有名なのは、美しいのはもちろん誰でも知っているあのオーボエのメロディーの力もあります。
音楽の力恐るべし。。。
とは言え、この日の公演は素晴らしく幸せの余韻は今も心に残っています。。。
キエフ・バレエ『バヤデルカ』公演概要
『バヤデルカ』
音楽:レオン・ミンクス
振付:マリウス・プティパ
当日配布されたキャスト表(1/5作成)から変更になっていました。
【キャスト】
ニキヤ(バヤデルカ):イリーナ・ペレン
ソロル(戦士):レオニード・サラファーノ
ガムザッティ(藩主の娘): オレシア・シャイターノワ
大僧正 :セルギイ・リトヴィネンコ
トロラグヴァ(戦士) : セルギイ・イファーノフ
ドゥグマンタ(ラジャ=インドの戦士) :ウラジスラーフ・イワシェンコ
マグダヴェーヤ(苦行僧):ヴィタリー・ネトルネンコ
奴隷 :マラト・シェミウノフ
黄金の偶像: ミキタ・スホルコフ
ジャンペー :マリア・ラブロネンコ、マルガリータ・アリアナフ
太鼓の踊り :エリザベータ・ゴギィゼ、ヴィタリー・ネトルネンコ、ドミトロ・チェボタル
マヌーの踊り(壺の踊り): カテリーナ・チュピナ
パ・ダクシオン: アンナ・ムロムツェワ、オリガ・スクリプチェンコ、マリア・ラブロネンコ、マルガリータ・アリアナフ
第一ヴァリエーション: マリーナ・ステパンチェンコ
第二ヴァリエーション :オリガ・スクリプチェンコ
第三ヴァリエーション :アンナ・ムロムツェワ
指揮:ミコラ・ジャジューラ
管弦楽:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団
2017年1月7日(土)14時開演 東京文化会館大ホール