コンスタンチン・リフシッツ「バッハは踊る」|音楽は流れる

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「バッハは踊る」というテーマで来日公演を行っているコンスタンチン・リフシッツのフランス組曲全曲演奏会を聴きました。

リフシッツの演奏は、これまでにゴルトベルク変奏曲とベートーヴェンの後期3曲のピアノソナタをライブで聴きましたが、いつも、この世のものとは思えないファンタスティックな世界を聴かせてくれます。

この日も、とても面白くエキサイトな演奏でした。


この記事を書いた人
Ina / 伊奈葉子

ピアノと音楽、自然とお茶時間をこよなく愛するInaこと伊奈葉子です。慶應義塾大学文学部卒業。詳しいプロフィールはこちら♪


早熟の天才コンスタンチン・リフシッツ

ピアニスト コンスタンチン・リフシッツ(Konstantin Lifschitz)は、早熟の天才としてキャリアをスタートさせました。

1976年ウクライナのハリコフに生まれ、5歳でモスクワの名門グネーシン特別音楽学校に入学、名教授と名高いゼリクマンに師事し、13歳でリサイタル、翌年から国内外での本格的な演奏活動を開始しています。

18歳でのグネーシン特別音楽学校の卒業記念リサイタルで演奏したバッハ ゴルトベルク変奏曲のCDは、96年米国グラミー賞にノミネートされました。

スピヴァコフ、テミルカーノフらの指揮者とのオーケストラ共演や、ロストロポーヴィッチ、クレーメル、ヴェンゲーロフ、マイスキーなどの当代一流の弦楽器奏者とも共演しています。

ということで、リフシッツは現代では珍しくコンクール歴がありません。神童と騒がれた子供時代から、42歳になる今年まで常にレパートリーを広げ、巨匠への道を歩んでいます。

リフシッツの演奏は、まるでミューズが奏でているように自然で作為的なところがなく、天上から降ってくるような音楽に魂が洗われるようです。

J.S.バッハ 平均律クラヴィーア曲集より第1巻と第2巻の3番が続けて演奏されていますので、聴いてみてください。

J.S.バッハは、リフシッツにとって得意のレパートリーで、すでに平均律クラヴィーア曲集チクルス、フーガの技法、音楽の捧げもの、ゴルドベルク変奏曲の演奏会を日本でも行っています。

バッハづくしの2018来日公演

今回の来日公演では、

  • イギリス組曲全6曲(3/21紀尾井ホール)
  • フランス組曲全6曲(青葉台フィリアホール)
  • パルティータ全6曲(3/25所沢市民文化センターミューズ)

に加えて、3/30&4/1にはピアノ協奏曲全曲を演奏します(東京・春・音楽祭)。

こんなタフなプログラムを企画するだけでリフシッツの器の大きさがわかるというもの。

歌手である新妻に捧げられたJ.S.バッハのフランス組曲

この日に演奏されたフランス組曲全6曲は、バッハ30代後半に描かれた6つの組曲です。

フランス組曲は、バッハが最初の妻と死別した後、36歳の年に再婚した15歳年下のアンナ・マグダレーナに献呈されました。

フランス組曲が優しい歌うような旋律にあふれているのは、アンナ・マグダレーナがプロの歌手であったことと無関係ではないように感じます。

フランス組曲全6曲の中で最もポピュラーな5番。

冒頭は美しいソプラノが聴こえてくるようです。

リフシッツの演奏はYoutubeに見つからなかったので、アンドラ―シュ・シフの演奏で。。。

音楽が流れるってどういうことなのか

さて、肝心の演奏ですが・・・

1番から順にリピート(繰り返し)を省略することなく、演奏されました。

ピアノの音ってこんなに伸びるのかと驚き、響きの豊かさ、音色の多彩さに感嘆しながら聴いていましたが、何より興味深かったのが、「音楽の流れ」でした。

フランス組曲というのは、アルマンド、クーラント、サラバンド、そしてジーグという4つの踊りが定型で、サラバンドとジーグの間にガボットやメヌエットなどが入ります。

踊りなので、それぞれに特徴的なリズムというものがあるのですが、それが興味深いのもさることながら、私が一番面白いと思ったのはリフシッツ自身には少々苦いところにあります。

ピアノリサイタルは暗譜で演奏されるのが常ですが、バッハは暗譜が厄介なんですよね。その厄介なバッハばかりで組まれたプログラム、どうなのだろうと思っていたら、やはり、暗譜が怪しくて即興でつないだり・・・というところが散見されました。

ところがです!

リフシッツが暗譜が飛ぶなんて思ってないということもあって、私の記憶と違う音を弾かれても最初のうちは、

「これは何版なんだ?」

と思ったりしていました。それほど流れが自然なのです。

そのうちに、リフシッツといえどもやはり人間で暗譜が怪しくなることもあるんだということを認識できましたが、すると今度は即興でつないでいるところの”面白さ”に妙に惹かれました。

というのも、本来の作品と全く違う音を弾いていて、つまり”間違っている”のに、音楽の流れが途切れないし、不自然でもない・・・

私自身が受けた教育や、コンクールでよく耳にする重箱の隅を突いたような演奏の対極にあるその”何か”(音楽そのものと言ってよいのかもしれませんが)に強いインパクトを受けました。

音楽が流れるってどういうことなのか、ということについて、認識を新たにした想いです。

フィリアホールのロビーをのぞむ。。。

この日、白眉だと思ったのは3番でした。

正直、3番ってマイナーであまり演奏される機会がないのですが、アルマンドは右足をペダルからはずしソフトペダルだけを踏んで演奏されたその響きはまさにパイプオルガンそのもの!

ホールは何とも言えない敬虔な空気に包まれました。

休憩後は人気の4、5、6番ですが、華やかな6番をフィナーレに盛り上がるのはとても心地よかったです。

そうそう、4番と6番の冒頭にプレリュードが演奏されたのが面白かったです。

6番のプレリュードとして演奏されたのは、平均律クラヴィーア曲集第1巻第9番のプレリュードでしたが、これが何ともいい雰囲気でした。

でも、この日一番エキサイトしたのはアンコールでした。

ミクロコスモスの最後6曲である「ブルガリアのリズムによる6つの舞曲」ってこんなに面白い曲なのかと帰宅してから、久しぶりに楽譜をひっぱりだしちゃいましたよ。

ミクロコスモス全6巻のプログラムで来日してくれないかな~と想いながら、帰途につきました。

コンスタンチン・リフシッツ「バッハは踊る」フィリアホール特別コンサート

【プログラム】J.S.バッハ:フランス組曲(全6曲)BWV812-817

【ピアノ】コンスタンチン・リフシッツ

【日時】2018年3月24日(土)14時開演

【場所】フィリアホール(横浜市青葉区民文化センター)

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ピアノと音楽、自然とアートとお茶時間をこよなく愛するInaこと伊奈葉子です。慶應義塾大学文学部卒業。詳しいプロフィールはこちら