コンクールや試験の時こそ思い出したいマリア・ジョアン・ピレシュの言葉

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若者は常に競争にさらされている。

音楽ビジネスやコンクールばかりが注目され、若者はそこから逃れられないと思っている。

けれど、そんなことはない。

彼らは自らの本質を探るべきであり、音楽の根源を探求しなければならない・・・

今年2018年限りでステージからの引退表明しているピアニストのマリア・ジョアン・ピレシュは、2018年6月10日に放映された『クラシック音楽館(Eテレ)』の中で今の想いと若い音楽家へ伝えたいことを語りました。

コンクールや試験は、現代では避けて通れないものですが、音楽家が忘れてはいけない大切なことを教えてくれるピレシュの言葉です。


この記事を書いた人
Ina / 伊奈葉子

ピアノと音楽、自然とお茶時間をこよなく愛するInaこと伊奈葉子です。慶應義塾大学文学部卒業。詳しいプロフィールはこちら♪


”私は苦労して弾けるようになった” byピレシュ

現代最高のピアニストのひとりマリア・ジョアン・ピレシュは、1944年ポルトガル・リスボン生まれで今年74歳。

7歳でモーツァルトの協奏曲を公開演奏、9歳でポルトガル政府から青少年音楽家に与えられる最高の栄誉を受け取り、1953年から1960年までリスボン大学で作曲・音楽理論・音楽史を学んだ後、西ドイツ・ミュンヘン音楽アカデミーでローズル・シュミット、ハノーファーでカール・エンゲルの各氏に学びました。

1970年16歳の年に、ブリュッセルで開かれたベートーヴェン生誕200周年記念コンクールで首位を獲得し、1970年代にデンオンと契約してモーツァルトのソナタ全集を録音し、”ピレシュと言えばモーツァルト”へと繋がっていきます。

十分に輝かしいキャリアなのに、ピレシュ自身は”私は天才ではない。苦労して弾けるようになった”と語ったのは、若い頃に故障によって全くピアノが弾けなかった時期があるからかもしれません(1980年代に復活)。

個人的に感じるのは、ピレシュの演奏にはあんまり”降ってくる”感じはなく、考え抜かれて作り上げられた美しくも脆い印象があります。

”苦労して弾けるようになった・・・”という彼女の言葉にその演奏の秘密を垣間見る思いです。

”クラシック商業主義からの離脱と後進の指導”ピレシュ引退の理由

絶好調と言ってもいいピレシュ引退のニュースが昨年秋流れた時には、クラシック界には文字通り激震が走りました。

だって、まだ73歳!なぜ今?

引退の理由は、クラシック音楽の商業主義からの離脱宣言と巷で言われていますが、それは結果であって、実際のところは彼女自身にしかわからない・・・というのが私の印象です。

音楽ビジネスやコンクールは芸術の存在価値とは関係ない

ピレシュがクラシック音楽商業主義へ一石を投じたいのは確かです。

彼女自身、こう語りました。

音楽ビジネスやコンクールばかりで
芸術の存在価値が感じられない。
表面的なものばかり。

大きなコンクールの優勝者を売り出す企画や、話題性が目につき、本物の音楽・演奏・演奏家がないがしろにされることが少なくないのは、私も同感です。

たとえば、今や世界中のコンクールが予選から配信されますが、ずっと聴いていると、優勝者よりも聴きたいピアニストは沢山います。ファイナルにたどり着けなくて「あ~あ・・・」と思ったこと幾たびか・・・

誰だって落ちたくないです。
誰だってチャンスをつかみたい・・・

その想いから音楽不在になってはいけないのです。

ピレシュは”音楽の根源的なものを探究しなければならない”と繰り返しました。

競争から逃れられないということはない

コンクールについて若いピアニストにピレシュは語ります。

若者は常に競争にさらされている。

音楽ビジネスやコンクールばかりが注目され、若者はそこから逃れられないと思っている。

でも彼らは自らの本質を探るべきであり、音楽の根源を探求しなければならない。

若者たちはそこから逃れられないと思い込んでいるけれど、そんなことはない。

一時期我慢すれば解放されるに違いないと思っている人もいるがそんなことはない。

競争から逃れらないという思い込み以上に、一時期我慢すれば済むというものではないというところが深いです。

乗ってしまったが最後、降りられないレールなのよ・・・という意味ですね。

競争は、”勝った”人にとっても決してよいものではないとピレシュは釘を刺します。

どちらが優れているという考え方は創造性を削いでしまいます。

自分のほうが優れていると思ったら、そこでもう行き止まりです。それ以上探求しなくなる。知らないと思うからこそ探求します。探求するからこそ発見があるのです。

ピアノを通じて自分の音を出す方法

岐阜サラマンカホールで開催されたピレシュの若いピアニストへのワークショップの様子から彼女のことばを紹介します。

・・・自由か秩序かの二者択一ではない。

楽譜に書かれた制限を理解していれば自由でいられる。

作曲家が求めていることを守ればあとは自由。

この言葉はつまり、

まず作曲家が求めていることを理解しなければならない、
そして、それを実現できなければならない、
その上であとは自由なのだという3ステップなんですよね。

ピアノで音を出すということについてはこう語りました。

音は天からは降ってこない。
頭で考え出すものでもない。

音は体で出すものです。

歌手と同じです。

歌手は自分の中に楽器があり、ピアニストは自分の外に楽器がある。

ピアノを通して、自分の音を出す方法を学ばなくてはなりません。

心の声に耳を傾けてください

最後に若い音楽家へのメッセージとして、ピレシュが色紙に書いた言葉です。

Listen to your Heart,
listen to your Soul,

remember what Music and Art does to you・・・

Pay attetion to Silence and Nature・・・

Don’t let you influenced by others on this matter,

Be honest and let things happen the way they come・・・

~♪~

心の声に耳を傾けてください。

音楽と芸術の素晴らしさを信じ、
静寂と自然に耳を澄まし、
他人に振り回されず、

誠実に、
あるがままに、

全てを受け止めてください。

(日本語のナレーション)

演奏する時、音楽と向き合う時・・・

そして、コンクールや試験のような音楽そのものと関係ないプレッシャーを感じるシーンにこそ心に留めておきたい言葉です。。。

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Ina / 伊奈葉子
ピアノと音楽、自然とアートとお茶時間をこよなく愛するInaこと伊奈葉子です。慶應義塾大学文学部卒業。詳しいプロフィールはこちら