日音コン2018ピアノ部門1次予選を聴いて|実を結ぶ努力を

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国内の数あるコンクールの中で最も歴史が古く、権威があるとされている日音コンこと日本音楽コンクールですが・・・

第1次予選を聴いたことがないことに気づき、行って参りました。

ここで演奏するというのはそれだけで大変なことです。今年の猛暑の中を毎日ピアノ室に缶詰になり、外出はレッスンや練習会だけ!そんなの当たり前!というストイックな方も少なくないことでしょう。

コンテスタントの皆さまの真摯な姿勢や努力には心から敬意を表します。

・・・その上で、私が感じたことをそのまま素直に綴りたいと思います。


この記事を書いた人
伊奈葉子 / Yoko Ina

ピアノと音楽、自然とお茶時間をこよなく愛する伊奈葉子です。慶應義塾大学文学部卒業。詳しいプロフィールはこちら♪


2018ピアノ部門第1次予選課題曲は変奏曲

第1次予選の課題曲は年によって様々ですが、2018年は「変奏曲」でした。

コンテスタントは以下の7曲から1曲を選んで演奏します。

(a)Beethoven: 32の変奏曲 WoO .80
(b)Beethoven: 自作主題による6つの変奏曲 Op.34
(c)Schubert: 即興曲集Op.142、D.935より第3番
(d)Schumann: アベッグ変奏曲 Op.1
(e)Brahms: 自作主題による変奏曲 Op.21-1
(f)Brahms: パガニーニの主題による変奏曲第1集 Op.35-1
(g)Brahms: パガニーニの主題による変奏曲第2集 Op.35-2

公式ページより

何を選ぶか悩ましいですね。

「パガバリ」ことブラームスのパガニーニの主題による変奏曲に目が行きがちですが、誰でもが弾ける曲ではありません。適性が求められます。

シューベルトの即興曲は学生コンクールの小学生部門の課題曲にもしばしば登場していて、よほど上手く弾かないと評価されないし、シューマンのアベッグ変奏曲も弾きにくいし・・・

ブラームスが大人気!第1次予選課題曲選択の内訳

ということで、選択された課題曲を集計してみました。

演奏した人が多かった順にご紹介します。

  1. Brahms: 自作主題による変奏曲 Op.21-1
    43/229人。

  2. Beethoven: 自作主題による6つの変奏曲 Op.34
    Schubert: 即興曲集Op.142、D.935より第3番
    共に38/229人。

  3. Schumann: アベッグ変奏曲 Op.1
    37/229人。

  4. Brahms: パガニーニの主題による変奏曲第2集 Op.35-2
    34/229人。

  5. Beethoven: 32の変奏曲 WoO .80
    31/229人。

  6. Brahms: パガニーニの主題による変奏曲第1集 Op.35-1
    8/229人。

パガバリ第1集がぐっと少ないのが際立ちますが、これは相当に自信がないと選べないということでしょう。

私的には、シューベルトが多いのが意外でした。

ブラームスOp.21-1が大人気ですが、曲の魅力からでしょうか。私も聴いているうちに弾きたくなってしまいました。

第1次予選通過者が弾いた曲|やはり意気込みが通過率に表れる

第1次予選を通過した人は何を弾いていたのか、曲によって有意差があるのかどうか集計してみました。

参加者229人のうち、第1次予選を通過したのは47人。

数だけでは見えてこないので、通過率を示しました。これは、例えば、(a)を選択した人31人中7人が通過なら、7÷31=0.226(四捨五入)⇒22.6%としています。

以下の通りでした。

(a)Beethoven: 32の変奏曲 WoO .80
 7/31人。通過率:22.6%

(b)Beethoven: 自作主題による6つの変奏曲 Op.34
 10/38人。通過率:26.3%

(c)Schubert: 即興曲集Op.142、D.935より第3番
 3/38人。通過率:7.8%

(d)Schumann: アベッグ変奏曲 Op.1
 7/37人。通過率:18.9%

(e)Brahms: 自作主題による変奏曲 Op.21-1
 10/43人。通過率:23.5%

(f)Brahms: パガニーニの主題による変奏曲第1集 Op.35-1
 3/8人。通過率:37.5%

(g)Brahms: パガニーニの主題による変奏曲第2集 Op.35-2
 7/34人。通過率:20.5%

以上の結果を見て際立つのは、シューベルトの通過率7.8%という低さとパガバリ第1集の37.5%ですが・・・

これは、コンテスタントの意気込みや賭ける想いに時間にエネルギーがそのまま数字になって表れていると感じました。

つまり・・・

パガバリ第1集を選ぶ人はそれなりのレベルで自負もあり、予選通過はもちろんその上を狙っているということの表れでしょう。

素直な感想としてシューベルトを選択した人の中には、いわゆる”記念受験”な方もいらっしゃるかと思いました。あっ、念のため言い添えますが、受験料を支払って参加するのですから、決して悪いこととは思いません。音大生なんだから憧れの舞台で弾いてみたいというのは十分あり得ることですし、そのために練習してステージに上がるのは立派なことです。。。

会場であるトッパンホールのロビーにあるライト。グリーンの光に惹かれます。

演奏は人となり

さて、日音コンは、予選から全公開です(第1次予選はチケット2,000円)。

何度か聴いたことのあるセミファイナルはほぼ満席になる盛況ぶり、2次予選もかなりな入りです。

第一次予選はそこまでではありませんでしたが、それでもコンテスタントとその関係者以外の一般聴衆も相当数いらっしゃる様子でした。

要するに形式的に「コンサート」だということ。

ひとりの聴衆として聴いて考えたこと感じたことを素直に綴りますが・・・

今さらですけれど、演奏にはその人がそのまま表れます、残酷なほどに・・・

ずばり、

演奏は人なり

です。

どういうことかというと・・・

やっぱり、音楽が好きでピアノが好きな人と、そうでもないかな?という人は聴いていてはっきりわかります。

当然、音楽が好きで、ピアノが好きで、弾かずにはいられない・・・という人の演奏は胸打つ物があります。

そういう人の演奏は心動かされますし、忘れないですね。

・・・結果とは別です。

変奏曲とは何か?

今年2018年の課題曲は「変奏曲」ですが・・・

変奏曲とは、テーマがあってそれが変奏されていくわけです。

それは、そもそもバロックの昔、今のように作曲と演奏は分業されておらず、テーマをいかに多様に変奏していくのかは作曲と演奏の両方の技量を披露し、すなわち、音楽家としての自分の能力をアピールして仕事を獲得するものでもありました。

なので、テーマなくして変奏曲は始まらないはずなのですが・・・

私が聴いた日は、テーマがぼやけて何だかよくわからない演奏が多かったのが残念でした。

特にベートーヴェンOp.34、シューベルト、ブラームスOp.21-1。

音が多くなるにつれ演奏が元気になるのですが、最初のテーマで印象がないと、地に足が着いていないというか、”幽霊”みたいな感じで、聴いていて微妙なんですよね。。。

コンクールだから、難しいパッセージが気になってどうしても練習時間が多くなるという事情はよ~くわかりますが、しかし、それもテーマあってこそ!です。

自分に合った曲を弾く

難しくてコンクール受けする曲を選びたい気持ちもわかりますが・・・

自分を知り、自分のキャラとか身体条件に合った曲を選ぶことの大切さを考えて欲しいと思いました。

たとえば声楽なら、モーツァルト『魔笛』の「夜の女王のアリア」は、「カルメン」を歌う人は絶対に歌いません。

『ラ・ボエーム』のミミと『椿姫』の「ヴィオレッタ」を共にレパートリーにする人は多いとしても、彼女たちが「カルメン」を歌うことはありません。

持って生まれた資質をやキャラを活かしてレパートリーを選ばないと「労多くして益少なし」はもちろん、「百害あって一利なし」ということにもなりかねません。

ところが、ピアノの場合、無理矢理でも達者に弾いてしまうと良しとされてしまうケースがままあるのですが・・・

聴いていた正直な感想として、小柄で華奢で手も大きくない可愛らしい女性が「パガバリ」と格闘するのはいかがなものでしょうか。

声楽なら「ミミ」を得意とするようなリリックが、自分の声域を越えた「夜の女王」を何とか歌おうと悪戦苦闘するのに似ていて、要するに虚しい努力です。

無理矢理弾いていても、それで通過してしまう人がいるので、何とか頑張ろうと言う話になってしまうのでしょうが、見ていて(聴いていて)痛々しいし、身体や神経への負担も心配です。

難曲に挑戦する意欲と頑張りは素晴らしいですが、目標設定を誤らない様にしたいと感じました。

色んな”美しい”を聴きたい

沢山の人の演奏を聴いていると強く感じるのですが・・・

たとえば、クレッシェンドとひと口に言っても、色んな表現があるはずです。

ところが、なぜか判で押したように、クレッシェンド=”突進”なんですよね。

確かにね、私も昔よくレッスンで言われました。

聴いている人にクレッシェンドしていることがわかるように弾きなさい、と。。。

クレッシェンドしてますよ~とアピールするように弾くと、「そう、それでいいのよ」って言われて、「そうか、これでいいんだ・・・」と思って頑張ったんですけれど・・・

そもそも音楽って何でしょう。

言葉でも絵でもなく、音で表現したい何かがあって、音楽でしか表現できない世界があるはずなのに、版で押したようなクレッシェンドっておかしくないですか?

聴衆としては、クレッシェンドだってfだってpだって、ともかく色んな”美しい”を楽しみたいわけです。

音楽を聴くのは、どこか旅に似ていると思います。知らない世界を見せて欲しい、未知の世界を見せて欲しいという期待を持ってのぞむわけです。

だから、”美しい”も、色んな”美しい”を聴きたい。。。

それは、やっぱりピアノに向かうのとは別の時間に、どんな音楽に接しているかとか、音楽以外に文学や美術はもちろん、教養の深さや広さというところとつながっていきます。

色々書きましたが、冒頭にも書いたように私はすべてのコンテスタントの皆さんに心から敬意を表します。この場で演奏するのは大変なことです。

だからこそ、その努力が実を結ぶように、方向を間違えないで欲しいと思います。

ともあれ真摯な演奏に接して、とても気持ちよい時間でした。

ありがとうございます。

データ|2018年度第87回日本コンクールピアノ部門

2018年度第87回日本音楽コンクール ピアノ部門

【日程】

第1予選: 9月10日(月)・11日(火)・12日(水)・13日(木)・14日(金)
第2予選: 9月16日(日)・17日(月・祝)・18日(火)
第3予選 :9月20日(木)

本選 :10月27日(土)

【予選会場】トッパンホール
http://www.toppanhall.com/

【本選会場】東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
http://www.operacity.jp/concert/

【日本音楽コンクール公式HP】http://oncon.mainichi-classic.jp/index.shtml