アレクサンダー・ロマノフスキー ピアノリサイタル 紀尾井ホール

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雨上がりの金曜日1/23に紀尾井ホールでアレクサンダー・ロマノフスキー ピアノリサイタルを聴いた。
ロマノフスキーを初めて聴いたのは2011年5月のチャイコフスキーコンクール、その翌年から毎回来日公演を聴いている。
リサイタルは3度目。。。

☆プログラム☆
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 cis-moll Op.14-2「月光」
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 E-dur Op.109
(休憩)
・ショパン:バラード第2番 F-dur Op.38
・ショパン:バラード第4番 f-moll Op.52
・ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 b-moll Op.35 「葬送」

~♪~

「月光」が始まってすぐに、今までよりも良い意味で力が抜け、響きが伸びやかなのを感じた。
とても自然に音楽が流れていく。
余分なものをそぎ落とし、よどみなく、音楽のあるべき姿がそこに流れていく。

1楽章 Adagio sostenuto
よく歌うバスが奏でるのは言葉にできない祈りにも似た深い想い。
右手の三連符は湖面を漂う波とそこに揺れる月の光を幻想的な心象風景として描く。
恋人たちの声なき語らいが夜の静寂の中に響くよう。。。

2楽章 Allegretto
ベートーヴェンが好んで散歩した田園風景と農民たちの踊りが浮かぶ。。。
降り注ぐ明るい陽射し、葉擦れの音、緑の薫り・・・その中で輝く人々の笑顔と聴こえる(であろう)語らい。

Trio後半リピートの後のチャーミングな事!ベートーヴェンは可愛い娘を見つけて目を細めたに違いない。
とても幸せな時間が流れる。。。

3楽章 Presto agitato
18世紀後半ドイツの”:Sturm und Drang”を体現したのかと思わせる、まさに疾風怒濤。
けれど、どんなにagitatoでも、抑制を失う事がない。
この激しさの中で、どこまでもノーブルを崩さない、その緊張感に圧倒される。

あっという間に、日常から引き離され異空間に引きずり込まれた。

30番のソナタでは、ベートーヴェンの後期ソナタの特徴である自由なロマン的発想が、彼の決して感情的に流れない抑制によって見事なまでにノーブルに表現されていた。

第1楽章 Vivace, ma non troppo
この限りなく美しい楽章は、その表面的な美しさに甘んじる事なく芯の通った力強さを持って、理想を貫く意思に輝いていた。。。

第2楽章 Prestissimo
一体、何に駆り立てられているのだろう・・・ドキドキするほどの焦燥感。
しかし、細部まで神経が行き届いた繊細さ。
激しく移ろう心の葛藤を表しているかのようでもあった。

第3楽章 Andante molto cantabile ed espressivo
ディアベリ変奏曲をレパートリーに持つ彼ならでは真骨頂!
彼岸から聴こえてくるようなテーマ。
天上から降ってくるようなVar.1
天使が遊ぶVar.2
宇宙空間を飛び回るかのようなVar.3
柔らかな光に包まれたようなVar.4
そして、神々しいフガートは何度も身体が震えた・・・Var.5
そのままVar.6・・・そしてテーマが聴こえる。
・・・これを聴く事ができただけでも生きていて良かったと思う。。。

ベートーヴェンの作品の中でもロマン的なこの2曲は彼にとても合っていると思う。
とてもスマートで・・・ベートーヴェン自身には絶対に真似できないけど、きっと喜んだと思うな。。。

休憩後はショパン。

バラード2番。
コラールの美しいこと。
それぞれの声部が、本当に人の声で歌われるように聴こえる。
素朴な歌が流れる平和な風景・・・しかし、時折垣間見える不気味さは、平和がいつまでも続くわけではないことを暗示している。
そしてPresto con fuoco。
この狂気とも言える激しさ、そこにさえも気品を感じさせる、並外れたテクニックと抑制。
一歩間違えると深い淵に落ちるようなギリギリのバランスで演奏される緊張感が凄まじい。

バラード4番
憂いに満ちたこの作品は、あえて明るく、自然に、流れるように奏されることによって、真に美しく感じられた。
正直、巷で人気のこの曲、実はいい演奏に出会う事は少ない。
音の動きが複雑なので、もったいつけて弾くと停滞して眠くなってしまう。
ロマノフスキーの演奏は、とても心地よい流れの中で、この曲の憂いに満ちた言葉にできない、音でしか表現する事のできない心象を描いていた。
とても気持ちの良い演奏だった。

そして、ソナタ2番
今回の演奏すべてがとても自然な流れの中に描かれ、その流れの素晴らしさに心を委ねた時間だったが、それは、このシューマンが「彼の最も狂気じみた4人の子供を無理矢理一緒にした」と称した作品においても素晴らしかった。

第1楽章
激しい第1主題も決して乱暴ではない。
とにかく気品に満ちている。そのストイックさは聴く者を黙らせる説得力を持つ。
美しい第2主題も流れたりはしない。まるではるか彼方、この世を超えて彼岸に視線を向けるように美しい。
自然なアゴーギグに心を持っていかれる・・・それは、耽美などでは決してない。
ここまで自我を捨てて、音楽に自分を捧げる事ができるのかとその事に心打たれる。

第2楽章
完璧なテクニックあってこそ、こういう曲は本来の姿を現すのだと感じる。
ここまで見事に演奏されると、このアグレッシブで重たい作品にも冗談を感じるような気がする

第3楽章
静かに、厳かに、余分な感情を排除して奏されるからこそ美しくも哀しい葬送行進曲。
中間部は・・・涙の奥に蘇る在りし日の想い出。
たまらなく哀しい、そしてたまらなく美しい。

第4楽章
何もかもを失い墓場に呆然と立ち尽くす人の荒涼とした心に吹きすさぶ風の音。。。
最後の和音を一瞬のためらったかのように鳴らした・・・
その響きにこの作品の重みを刻印されてしまった。

会場は大いに沸き、彼も笑顔。。

アンコールは4曲
・ショパン:練習曲op.10より第12番「革命」
・バッハ-ジロティ:前奏曲第10番BWV855
・スクリャービン:12の練習曲より第12番
・ショパン:夜想曲第20番「遺作」

ロマノフスキーのスクリャービンは本当に魅力的だ。
この激しい曲を、「何と優雅でノーブルなのだろう」と感動させるのは彼ぐらいだろう。
この1曲だけでも、彼の非凡さを十分に伺い知る事ができる。

最初にも書いたけれど、今回は、良い意味で力が抜け、とても伸びやかで自然な音楽だった。
響きも豊かで今まで以上によく伸び、彼の尊敬するホロヴィッツのように、ピアノで歌うという事をより深めていたと思う。

新譜ラフマニノフのソナタもゆっくり聴きたいし・・・
何より、次の来日公演が楽しみ。。。

10/11に都響とラフマニノフのコンチェルト2番を共演するみたい・・・
もちろん、聴きます!

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この記事を書いた人

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伊奈葉子 / Yoko Ina
ピアノと音楽、自然とアートとお茶時間をこよなく愛する伊奈葉子です。慶應義塾大学文学部卒業。詳しいプロフィールはこちら