ツィメルマンピアノリサイタル|さらなる新境地を目指す開拓者

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ツィメルマンの今回の来日公演、かなり迷った末に、3/5オペラシティで開催されることになった追加公演のチケットを買いました。

・・・が、ここまでの公演の感想・評判で微妙なものが目に入り、かなり心配になりながら迎えた当日・・・

心配は全くの杞憂でした。

この日のツィメルマンを聴くことができて本当によかった・・・

心底そう思える素晴らしい演奏でした。


この記事を書いた人
伊奈葉子 / Yoko Ina Piano Teacher

心と頭と身体をチューニングすればピアノはもっと自由に弾けます。演奏向上と故障予防に1日15分のウォーミングアップ。悩めるピアノ弾きを笑顔にするレッスンをしています。詳しいプロフィールはこちら


ショパンの脳内音楽そのままのマズルカOp.24

ツィメルマンのリサイタルはショパン マズルカOp.24で始まりました。

最初の一音で別世界へ連れていかれました。

ショパンの脳内に鳴っていた音楽そのままの演奏。。。

弾き語りの声が聴こえてくるような1番、
笛の音に合わせてクルクル踊るのが見えるような2番、
男女ペアの幸せな踊りが見えるような3番、
そして、それらすべてが記憶の中で蜃気楼のように揺れ、消えないようにつかまえようとするかのような4番。。。

いつだったか、ツィメルマンは音楽雑誌のインタビューで”自分の国がないという状況で、異国でマズルカを描く。それがどういうことなのか・・・”と語っていたけれど、それがどういうことなのか伝わってくる演奏でした。

マズルカはショパンの魂ですね。。。

ブラームスのピアノ作品の素晴らしさを教えてくれた

マズルカを弾き終わって袖に引っ込み、続いてブラームス ピアノソナタ2番。

実は、この曲、個人的にあまり好きではありません。というか、ブラームスのピアノ作品自体、私はあまり聴きたい音楽ではありません。

私にとってのブラームスは弦楽六重奏曲などの室内楽です。

けれど、ツィメルマンの演奏はブラームスが描きたかったのはこういう音楽なのかと納得できる演奏でした。

2番のソナタは、一般的には打楽器的に叩かれ過ぎだな~と思いました。

ブラームスは超真面目な人ですが、演奏しているツィメルマンも負けず劣らず真面目ですよね(今さらですが・・・)。

そして真面目の二乗は地に足をつけたまま崇高へと向かい、大樹が枝葉を大空へと果てしなく広げていくような不思議な感覚になりました。

ピアノは、ハンマーが弦を叩くことで音が鳴る打楽器ですが、打撃音ではなく、その後の《響き》で世界を描いていく楽器なんだなと思いました。

ツィメルマンの演奏は、《響き》という絵の具で絵を描くようでした。

前半終わって休憩ですが、席を立つ人なく拍手も鳴り止まずカーテンコール2回。。。

ここまでで、本当に来てよかったと心底幸せになりました。

オペラシティ・コンサートホールへの階段。。。

それにしてもツィメルマンのピアノは不思議です

それにしても、ツィメルマンのピアノは不思議な響きです。

笛なのか?

と思わせるようなまっすぐに飛んでくる響きがしたり、

鈴なのか?

というようにシャンシャン鳴ったり・・・

今回、すべて楽譜を見ながら&自身でめくりながらの演奏でしたが、譜面台もツィメルマン特別ピアノ仕様のようでした(私の席からはよく見えなかったけれど、ふつーのスタインウェイの譜面台はあんな風に見えないはず)。

譜めくりの仕方にも彼らしいこだわりが見られました。フレーズの切れ目にやや間があいてもゆっくりと静かにめくったり、タイミングよく「シャッ!」というをさせてめくったり・・・

ツィメルマンは何をやってもツィメルマンですね。

短調の中の長調が明るさを増し陽転するスケルツォ全4曲

後半のプログラムはショパンスケルツォ全4曲。

1曲ずつ袖に引っ込み、譜めくりのタイミング(=フレーズの切れ目)で間が空くようなところもあったけれど、ツィメルマンファンの私はそれもツィメルマンの世界と受け入れて鑑賞しました。

何より興味深かったのは、全4曲の構成です。

1番中間部の夢の中に響くような子守歌の長調、
2番の大空へ想いの馳せるような長調、
3番の水辺を照らすような長調・・・

1番⇒2番⇒3番へと明るさと存在感を増す長調部分は、4番で完全にひっくり返ってホ長調となり、光いっぱいの輝く世界の中にかすかに影を見るみたいな短調・・・という構成が素晴らしかったです。

あ〜、プログラムってこういう風に組み立てるのかと思いました。

その上で1曲ずつの雑感ですが・・・

1番、冒頭の和音は悲劇の始まりを告げる合図のように淡々と鳴りまして、そこから底なし沼のように、これでもかこれでもかとドロドロ、グチャグチャ中間部の歌は息も絶え絶えにうつろに響き、再び混とんへと。。。

2番、前に聴いた時は息ができないくらいだったけれど、今回は皮肉たっぷり、運命に翻弄される人間の哀しさを表しているようでした。長調の部分はペダル少なめでドライ。再現部は霧の中から浮かび上がるようで、恐怖再び・・・みたいな凄味がありました。

3番、短調の部分よりも長調の部分に重きを置いて次の4番につなげる感じ。

そして、4番。明るさを増した長調部分が、ついにホ長調へひっくり返った!という感じ。頭を振りながらの無邪気にして無垢な冒頭。途中短調になるところでは、涙もなく笑顔で過去を振り返る感じ。。。

いや~、もう素晴らしすぎて心身ともに浄化されました。

次回はブラームスのバラードか?!

アンコールはブラームスのバラード3曲。

これがまた気合の入った素晴らしい演奏でした。

次の来日では絶対に全曲弾くつもりだな、その予告編かと確信しましたね。

内省的なしみじみ心に沁みる演奏。

予定の行動で3曲目にはステージに出るなりお辞儀もせずに弾き始めました。

3曲弾き終わって、自らピアノのフタを閉めて会場は大爆笑。

ツィメルマン自身満足の演奏だったのでしょう。

聴衆へ投げキッスしてくれました。

さらなる新境地へ、ツィメルマンはどこへ行く

18歳でショパンコンクールで優勝したツィメルマンも62歳になりました。

2月の公演の評判で微妙なものを目にして、そろそろ老境なのかと心配したけれど、いやいや、彼は新境地を拓いていると私は思いました。

彼の頭の中には、ヴィジョンがあふれていて、目指すところへまっしぐらだと感じました。

むしろ若い頃の、何でも何の苦もなくツルツルと弾けてしまうようなショパンのスケルツォよりも、今回の演奏の方が私は好きです。

楽譜をめくりながら弾いたっていいじゃないですか。

彼は聴き慣れた曲たちの思いもよらない素晴らしさを教えてくれました。

ありがとう!ツィメルマン!

また聴ける日を楽しみにしています。。。

データ|クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル2019

【プログラム】

ショパン:4つのマズルカ Op. 24
 第14番 ト短調 Op. 24-1
 第15番 ハ長調 Op. 24-2
 第16番 変イ長調 Op. 24-3
 第17番 変ロ短調 Op. 24-4

ブラームス:ピアノ・ソナタ 第2番 嬰へ短調 Op. 2

《休憩》

ショパン:4つのスケルツォ
 第1番 ロ短調 Op. 20
 第2番 変ロ短調 Op. 31
 第3番 嬰ハ短調 Op. 39
 第4番 ホ長調 Op. 54

【アンコール】

ブラームス 4つのバラード Op.10より第1番、第2番、第4番

2019年3月5日(火) 19:00 開演
東京オペラシティ コンサートホール

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